【特集】大学生たちを撃破! 高校生の森下史崇(茨城・霞ヶ浦高)が激戦区の男子フリースタイル55kg級を制す!【2009年4月27日】



 JOC杯ジュニアオリンピック最終日、大学生が主戦場とする男子ジュニアの部フリースタイル55kg級では、本来の年齢区分ならカデット(16〜17歳)の森下史崇(茨城・霞ヶ浦高=右写真)が一気に勝ち上がり、初優勝を飾った。

 昨年は50kg級でインターハイ王者となり、12月の天皇杯全日本選手権で55kg級にアップ。1月の関東高校選抜大会、3月の全国高校選抜大会と2009年に入ってからは、団体・個人戦ともに全勝街道を進んでいる。同世代で突出した力を持つ森下に、霞ヶ浦高の大沢友博監督はひとつの決断を下した。それがJOC杯はジュニアの部にチャレンジさせることだった。

■練習でボコボコにやられている相手に快勝!

 階級アップ後、ここまで結果は出しているものの、「体重が少ない、体が小さい」など関係者からの心配は多く、大学生相手に今の森下がどこまで通用するのかは未知数だった。だが、ふたを開けてみれば初日の2試合は危なげなく勝ち抜き、ヤマ場となった高校の元先輩との3回戦の倉持祐貴(山梨学院大)戦と、準々決勝の若林健太(東洋大・昨年2位)戦も勢いで勝ち抜いた。

 決勝戦の相手は、国士舘大の利部裕。大沢監督曰く、「練習でボコボコにされている相手」だった。苦手意識があったのか、第1ピリオドは利部に組み負けてしまい、1点を先制された。その後も大学生の利部が攻守ともに一枚上手だったが、それでも森下はあきらめなかった。「(第1ピリオドの)最後、相手ががっちり組んでいたのでチャンスがあるかなと思った」と、機を見てラスト2秒で完璧な首投げ。

 ほぼブザーと同時に利部の体がマットに着いた(左写真=赤が森下)。「(相手を)投げてから、(タイムアップを示す棒が)飛んできたので、いけると思った」と森下は3点を確信。国士舘の和田貴広コーチがチャレンジ権(ビデオチェック要求)を行使しても、焦りはなかった(判定は覆らず、ルールによって森下に1点が入る)。むしろ、首投げで腰を強打した利部が第2ピリオドで失速。そこを見逃さず、森下はバックを奪って1点。その後もタックルでテークダウンを奪い、連続ローリングで仕留めた。


 試合後は両手でガッツポーズ(右下写真)。「正直、(大学生を相手に)勝てるとは思っていなかった。うれしいです」と笑顔を見せた。大沢監督は「勝つために調整してきましたから」と、掲げた目標を達成しただけと言葉上では平常心を強調したが、表情はゆるみっぱなし。最後には、「森下に120点をあげたい」と、全国高校選抜大会で与えた100点以上の点数をつけた。

■8月はインターハイと世界ジュニア選手権を連戦か?

 練習では全く歯が立たなかった利部を倒した勝因は何か。大沢監督、森下ともに「練習は駄目。よく失点する」と口をそろえる。だが、森下は「本番は1試合ごとに時間が空くから集中できる」と、集中力を高めることが本番に強くなる秘訣のようだ。

 これで高校生ながら、日本のお家芸であるフリースタイル55kg級の日本代表として8月の世界ジュニア選手権(トルコ)出場の権利を手に入れた。ところが、その日程は、高校生最大のイベントのインターハイと同日程。「できれば、世界ジュニアに出場させたい」と大沢監督も話したが、今年のインターハイは霞ヶ浦高にとってV20を狙う節目の大会。さらに、森下はチームの2番手としてチームの絶対的な存在なのだ。高校選抜大会では決勝までわずか黒星1と大勝した霞ヶ浦だったが、1番手の折田誠治と2番手の森下の軽量級コンビでチームに勢いを与えたことが大きな勝因だからこそ、森下抜きでのインターハイは考えられない。

 森下自身も「団体戦はみんなと一緒にやって勝ちたいです」と、高校最後の夏は仲間ととも過ごす希望を持っている。「世界ジュニアが駄目でも、アジアジュニアに出て成績を残したい」と話したが、インターハイが3〜6日で、世界ジュニア選手権の男子フリースタイル55kg級は最終日の8月9日。強行出場できる可能性が残っていることを告げると、「出場できるなら、自分の力を試してみたい」と前向きだった。

 カデット区分の年齢ながら、ジュニアを制した森下。今年の高校MVPはすでに森下に決まったも同然か? それとも、昨年高校五冠王の北村公平(京都・京都八幡)らの巻き返しはあるのか―。今年のスーパー高校生たちのシーズンはまだ始まったばかりだ。

(文・撮影=増渕由気子)


《iモード=前ページへ戻る》
《前ページへ戻る》