【特集】「まさか泣くとは思いませんでした」…涙が止まらなかった須藤元気監督【2009年5月23日】



 東日本学生リーグ戦は、Aグループ無敗で決勝に勝ち進んだ拓大が、Bグループ1位の早大を4−3で下し、4年ぶり3度目の優勝。元総合格闘家の須藤元気監督が就任してからは初優勝となった。

■11月の就任時からイメチェン! おとなしい監督から身近な”お兄ちゃん”に

 96kg級で主将の藤本健治が早大・武富隆を鉄壁のディフェンスで破ってストレートで下すと、ベンチ・メンバーがマットになだれ込み、勝利を味わった。その中で、誰よりも先に涙を流した関係者がいた。それが須藤監督だ。96kg級で勝負が決まると、120kg級の試合中にも関わらず、目は真っ赤。何度も手で涙をぬぐうシーンが見られ(右写真)、「まさか泣くとは思いませんでした」と自身でも驚くほどの興奮状態だった。

 昨年11月、シーズン途中ながら急きょ監督に就任。OBとはいえ、自分が在籍していたころの拓大とは練習環境もメンバーの雰囲気も違う。昨シーズンの全日本大学選手権では、いで立ちもスーツ姿であり、「選手と年が近いので、お兄ちゃん的存在になれれば」と話していたが、会ったばかりの選手とは、どことなく距離感があった。

 あれから半年。セコンドでおとなしく座っている須藤監督はどこへやら。大声で選手の名前を叫び、適切なアドバイスを送りながら、ポイントが入るたびに一喜一憂する須藤監督の姿があった。

 堅苦しいスーツも脱ぎ、自らがプロデュースした選手とおそろいのTシャツを着て、見た目も心も選手と一心同体だった。選手とはだいぶ打ち解けたようで、「どっちが“お兄ちゃん”なのか分からない」と童心に返ったような瞳で、優勝後は選手とともに拓大校歌を斉唱した。

■“元プロ選手・須藤元気”効果がてきめん!

 下馬評では、66kg級全日本王者で昨年学生2冠王者の米満達弘(自衛隊)が抜けたことで、「優勝には手が届かないのでは」という意見が多かった。だが須藤監督は超プラス思考。まず精神面で選手たちを導いた。「思考と言葉と行為、この3つさえ、自分で前向きに考えていけば、必ず(目標)は実現するとみんなに言ってきました」。

 また、リーグ戦優勝のために、できるだけの仕事の都合をつけて合宿にも参加してきた。学生と多くの時間をともにすることで、生徒との信頼感を培ってきた。藤本主将も「須藤監督と長い時間触れ合うことで信頼できました」と感謝の気持ちを表した(左写真=選手から胴上げを受ける須藤監督)

 もう一つ、拓大に追い風が吹いたことがある。それがテレビ取材が入ったことだ。須藤監督の本格的な初陣をテレビ局が密着取材。普段の練習から、拓大は常にテレビ・カメラを意識しながら練習することになった。

 メディアに注目されることで、平常心を失いかねない危険もあるが、プラス思考の須藤監督は生徒にこう説いた。「とらえ方を変えよう。みんな一人一人が注目されるよ。みんながスターになれる」。そのおかげで、学生たちに須藤監督直伝の“プロ意識”が芽生え、その意識が、早大チームの“61年ぶりの優勝にかける気持ち”を上回った。

 以前、何万人単位の舞台でスポットライトを浴びてきた須藤監督だからこそできる指導―。本番で力を発揮するためのノウハウをわずか半年で学生たちに植え付けてしまった。「一つの流れができたので次もいけると思う」。今シーズンの拓大の強さは”本物”だ。

(文=増渕由気子、撮影=増渕由気子・矢吹建夫)


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