【全日本選抜選手権優勝選手】フリースタイル96kg級・磯川孝生【2009年6月21日】

(文=三次敏之、撮影=矢吹建夫)


 全日本王者である松本慎吾が早々と出場辞退を決めており、この大会を制した選手が世界選手権の出場権を得ることが決まっていたフリースタイル96kg級。前年王者の磯川孝生(徳山大学職)が、決勝でキッズ時代からお互いに知り尽くしている坂本憲蔵(自衛隊)を下し、念願の世界選手権初出場を決めた。

 2007年に84s級から96s級に階級を上げた磯川は、昨年のこの大会で優勝することができた。ところが年末には屈辱を味わうことになる…。現役引退を事実上決めていたグレコローマン84kg級の日本不動の王者の松本慎吾が、全日本選手権のフリースタイル96s級にエントリーしてきたのだ。2回戦で松本と対戦した磯川は、第1ピリオドを奪ったものの、第2・第3ピリオドを奪われて敗れた。

 勝負の世界で敗れて激励されるケースはよくあることだが、磯川はこの敗北で傷心状態となり、激励しようにもできないようなムードが漂っていた。だが、いつまで悔いていても始まらない。試合を通じて自分の心を鍛え直してくれた松本に感謝するためにも、世界選手権で勝つことだけを目標に、日々練習に打ち込んだ。

 決勝の相手の坂本には失礼な言い方になるが、磯川には世界しか見えていなかった。だからこそ、初戦から決勝戦まで相手に1ポイントも与えることなく勝利して優勝できたのではないだろうか。今年の4月から徳山大学職員として働いている磯川。その環境を作ってくれた人たち、練習仲間といった人たちにも感謝するとともに、恩返しができる優勝であった。


 ◆磯川孝生の話「徳山大学職員となって最初の大会でもあるので、気合いが入りました。天皇杯では松本(慎吾)先輩に敗れてしまいましたが、すごく感謝しているんです。あの負けでレスリングが楽しくなりましたから。これから世界選手権までに、合宿などで松本先輩にはいろいろアドバイスをしていただければと思います。松本先輩はグレコの方ですが、スタンドが強いので、参考にさせていただくこともたくさんあると思います。決勝戦ですか? とにかく自分のレスリングをしようと思い、力を抜いて戦いました」


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