【特集】1年生で新人戦両スタイル制覇…鈴木康寛(拓大)金澤勝利(山梨学院大)【2009年6月24日】

(文・撮影=増渕由気子)


 東日本学生春季新人戦が6月18〜19日、東京・駒沢体育館で行われた。2003年に1年生で両スタイルを制した長谷川恒平(当時青山学院大)は、その後、大学3冠王者になり、社会人1年目で全日本のタイトルを取得。今年は念願の世界選手権出場を決めた。東日本春季新人戦は「スター選手の登竜門」的な存在になっている。

 「大学に入って一番最初の新人戦で両スタイル制覇する選手は伸びる」―。指導者たちが口をそろえる言葉だが、今大会は“1年生で両スタイル制覇”の離れ業をやってのけた選手が2人もいる。60kg級の鈴木康寛(香川・多度津高〜拓大、右写真の左)と96kg級の金澤勝利(岩手・種市高〜山梨学院大、右写真の右)だ。どちらもフリースタイルを専門としているが、グレコローマンでも頂点を極めた。

 昨年同様、今大会も全日本選抜選手権と連続しての日程だったため、高校三冠王者の田中幸太郎(フリースタイル60kg級=早大)や、2008年全日本選抜選手権フリースタイル74kg級2位の高谷惣亮(拓大)ら“エリート選手”はエントリーすらしなかった。それでも、両スタイルのルールの差が明確に分かれている近年、ますます“両スタイル制覇”のハードルは高くなる一方で、今回の快挙の価値を下げるものではない。

■田中幸太郎、井上貴尋らの後塵を拝していた鈴木

 鈴木は高校では高校三冠王の田中や、インターハイ王者の井上貴尋(日体大、現在は66kg級)と同階級だったため、その影に隠れて目立たない存在だった。昨年の国体少年の部のチャンピオンではあるが、「井上はグレコローマンに出場し、田中はけがで途中棄権したから」と自ら“棚ぼた優勝”と位置づけている。

 潜在能力は負けていない。レスリングは幼少から始め、小学校ではわんぱく相撲のチャンピオンになった。クラブチームでレスリングを続けながら、学校では「将来野球選手になる」という夢を抱いてソフトボール部に所属していた。

 負けん気が強い鈴木は、小学校6年のレスリングの試合で投げ技を食らって負けたことがきっかけで、「投げ技の強化」のために中学校では柔道部に所属。中学校3年時には60kg級で全国中学生チャンピオンにまでなった。柔道でもオリンピックは目指せるが、「柔道はレスリングの強化のため」と割り切ってやっていたために、辞めることには未練はなかった。

 高校に入り、甲子園を目指すべく憧れの野球部に入る予定が、「身長が163センチで、(野球でトップは)無理」と判断。香川の多度津工高で本格的にレスリングに取り組み、今に至る。

 鈴木は「今まで自信がなかったのですが、タイトルを取れたことで自信がつきました」と笑みを見せたが、両スタイルの快挙については、「強い選手は全日本選抜選手権に出場していますから」と、国体チャンピオンになった時と同じように優勝の価値を客観的に判断していた。

 鈴木の潜在能力を関係者たちは高く評価する。フリースタイルの決勝では「一度も勝ったことがない」という有島義弘(日体大)に第1ピリオドで2−7と大差をつけられた。「このピリオドは捨てようと思った」とあきらめかけるが、拓大の西口茂樹部長の「いけるぞ」の一言で気持ちを切り替え、そこから怒とうの飛行機投げ3連発で8−7と逆転した。専門外のグレコローマンも、終わってみれば全試合ストレート勝ちと文句なしの勝利だ。

 東日本学生リーグ戦優勝に続いて、新人戦でも新スターが誕生した拓大。須藤元気監督はこの日もセコンドとして選手たちに大きな声援を送っていた。須藤監督の下、拓大の新しいダイヤモンドの原石が少しずつ輝こうとしている。

■“最強留学生”ボリス以来の快挙

 重量級でも新スターが誕生した。96kg級を両スタイルで優勝を飾った金沢は、学生四冠王のムジコフ・ボリス(山梨学院大)以来、3年ぶりのダブル・チャンピオンとなった。小幡邦彦コーチは「金沢は度胸があります。組んでも強いですし」と太鼓判を押しす。

 だが、金沢自身は万全の調子ではなかった。ひじの故障で2週間ほど練習ができず、ぶっつけ本番の状態。それでも、優勝にこだわったのは、同僚たちへの強い想いがあったからだ。「有薗(拓真)さんが全日本選抜選手権に出るため、今大会で僕が優勝しておかないと、秋の大会で対戦しなくてはいけなくなるから」と同門対決を回避するために、意地を見せたようだ。

 「いずれは、山梨学院大の柱になりたい」と抱負を話す金澤。ボリスが抜ける来年の重量級エースとして名乗りを上げていた。


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