【特集】国際大会4大会連続優勝にも、おごりなし! 世界一を目指す長谷川恒平【2009年7月22日】

(文=増渕由気子、撮影=ビル・メイ)



 近年、世界選手権の前哨戦となる冬の海外遠征、春のアジア選手権、6月の全日本選抜選手権、夏の海外遠征といった試合を1敗もせずに乗り切った男子選手がいただろうか。

 北京五輪後、多くの五輪代表が引退や休養。全日本男子チームの“顔”が見えなくなっていた時期もあった新生全日本チームだが、4大会連続金メダルという実績を引っさげて、長谷川恒平(福一漁業)がチームの主役に名乗り出た。これまでの五輪翌年の世界選手権は、1993年、1997年、2001年、2005年と4度連続で表彰台なしに終わっている。だが、今回はメダルが期待できそうだ。

 ★長谷川恒平の今年の国際大会成績

  【ニコラ・ペトロフ国際大会】
優勝、10選手出場
 1回戦  ○[2−1(0-3,2-7,3-0)]Alexandar Kostadinov(ブルガリア)
 2回戦  ○[2−1(1-0,0-1,1-0)]峯村亮(神奈川大職)
 準決勝 ○[2−0(2-0,1-0)]Mostafa Hassan(エジプト) 
 決  勝 ○[2−0(1-0,2-0)]Venelin Venkov(ブルガリア) 

  【ハンガリー・カップ】優勝、20選手出場
 1回戦  BYE
 2回戦  ○[2−0(2-0,5-0)]Maksim Kazharski (ベラルーシ)
 3回戦  ○[2−0(2-0,8-0)]Anders Ronningen (ノルウェー)
 準決勝 ○[2−1(0-1,2-0,1-0)]Spencer Mango (米国)
 決  勝 ○[2−0(2-0,1-0)]Mariusz Los (ポーランド)

  【アジア選手権】優勝、11選手出場
 1回戦  ○[2−0(1-0,7-0)]Askhat Kudaibergenov (カザフスタン)
 2回戦  ○[2−0(5-0,7-0)]Hai Ho Quang(ベトナム)
 準決勝 ○[2−0(3-0,2-0)]Mohammad Faghiri(イラン)
 決 勝  ○[2−0(1-0,1-0)]Joginder Singh(インド)

  【ゴールデンGP決勝大会】優勝、17選手出場
 1回戦   BYE
 2回戦  ○[2−0(2-0,3-2)]Rovshan Bayramov(アゼルバイジャン)
 3回戦  ○[2−0(1-0,3-0)]峯村亮(神奈川大職)
 準決勝 ○[2−1(0-1,1-0,1-0)]Peter Modos(ハンガリー)
 決  勝 ○[2−0(2-0,1-0)]Haji pour Mohsen(イラン)

 もっとも長谷川自身は「あくまでも狙うはロンドン五輪での金メダル。ハミド・スーリアン(イラン)のように3年連続世界王者になって五輪だけ負けるのは意味がない」と、今年は金メダルに固執せず、自然体で大会に臨む腹積もりだ。(右写真=国際大会4大会連続優勝の長谷川)

■勝ったとはいえ、北京五輪銀メダリストの強さを実感

 冬の遠征とアジア選手権は、長谷川が望むような“強豪”選手を下しての優勝ではなかった。今回のゴールデンGP決勝大会は、レスリング史上最高の賞金マッチとなったため、大会前から高レベルな試合が続くことを予感した長谷川は、自分の位置を「世界で5、6番目かな」と予想。楽に金メダルが取れるとは微塵も思っていなかった。

 事実、計量会場には強豪選手がずらりと顔を並べ、初戦(2回戦)の相手は北京五輪銀メダリストであり2006・08年にこの大会を制している地元の英雄、ロブシャン・バイラモフ(アゼルバイジャン)に決まった。「大会のポスターになっていました」と、大会の看板選手と初戦で戦うことになったのだ。

 それでも、「緊張はしなかった」と言う。以前のクロスボディロックからの防御は苦手だった長谷川だが、「現在のパーテールポジションからのディフェンスは以前から得意」と、ルール変更を味方に付けた格好で、大会最大の強豪に危なげなくストレートで勝利した。

 だが、試合後の感覚は、五輪2位を倒した充実感よりも、危機感や驚きのほうが大きかった。グラウンドでバイラモフのリフト技を受けた時のことだ。バイラモフの手が長谷川の太ももに触れてのリフトになったため、反則でノーポイントになったが、「スピードが半端なく速かったです。1秒あれば持ち上げられる、という選手だったんです」と五輪メダリストのレベルの高さを知った(左写真=青が長谷川)

■今シーズンのランクは“暫定1位”! 本物の1位へ駆け上がれるか

 最強選手を下して、順調に勝ち進んだ長谷川だが、一番苦戦したのは準決勝のペテル・モドス(ハンガリー=北京五輪出場)だった。モドスは昨年、セルビアで行われた北京五輪最終予選で豊田雅俊(警視庁)をプレーオフで破り、この階級の日本選手の北京五輪出場の夢を断った張本人だ(クリック)。

 当初はこの“リベンジマッチ”に、長谷川は不安を抱いていなかった。「長身で手足が長い選手、つまり峯村(亮)とはいつもやっているから」と、いつもどおりの気持ちで臨んだという。だが、第1ピリオドでテクニカルポイントを奪えなかった。グランドでもいいポジションでクラッチを組めたのに返せず、ピリオドを落としたのは今大会唯一のことだった。

 相手にリードされた第2ピリオドも得意のスタンドでポイントが取れず、グラウンド勝負で守って1ポイントを奪取。最終ピリオドで、相手をバテさせてスタンドで1ポイントを奪って勝利したが、課題の残る試合となったようで、どんな選手でも気を抜けない闘いが必要であることを再認識したことだろう。

 ともあれ、世界選手権前の”前哨戦”をすべて優勝で終えた。今シーズンの世界ランクをつけるなら「暫定1位」といったところか。地元の英雄を倒したこともあり、アゼルバイジャンではたくさんの人に声をかけられて、“世界のHASEGAWA”に一歩近づいたようだ。(右写真=地元のレスリング・ファンに記念撮影をせがまれた長谷川)

 だが、長谷川におごりはない。「世界選手権は規模が違うので」と唇を真一文字に結んだ。アジア選手権、ゴールデン決勝大会に出場してこなかった世界V3のスーリアンも世界選手権で復帰する予定だという。それでも長谷川は、「今のルールでは、もうリフトは怖くない」と、打倒スーリアンの青写真をしっかりと描けるようなった。

 世界選手権まであと約2ヶ月。海外遠征は今大会が最後で、あとは日体大と全日本合宿を拠点に国内で調整を続ける。


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