【特集】北村公平の最後の夏は3回戦敗退だが、「挑戦する気持ちを持ちたかった」と悔いはなし【2009年8月6日】

(文・撮影=増渕由気子)



 昨年74s級で高校五冠王者に輝いた北村公平(京都・京都八幡)の夏が終わった。インターハイ個人戦で、本来の階級からアップして84s級にエントリー。階級をまたいでの大会連覇を狙って奈良に乗り込んできたが、3回戦で敗退した(右写真:84kg級高校選抜王者と相対した北村=青)

■記録より、やりたいことを選んで1階級上に挑戦!

 3月の風間杯全国高校選抜選手権では、優勝した直後、「うれしくないです」と反省ばかりが残り、チャレンジャー精神をどう出していくかが今季の課題となった。2年生からチャンピオンになった北村は74s級に敵はなし。試合に出ればタイトルを確実に取れるが、目標もなくタイトルだけを重ねていく自分を想像した北村は「このままではダメになる」と悟った。

 そこで、84s級に挑戦することでチャレンジャー精神を取り戻す作戦に出た。「記録よりも、やりたいことを選びました」。そんな北村を待ち受けていたのは、84s級で不動の地位を築こうとしている細谷翔太朗(埼玉・花咲徳栄)だった。3回戦で激突した今季の高校選抜王者同士の対決―。負けた方は表彰台にも上がれないという究極のサバイバルマッチとなった。

 体つきがよくドラム缶のような肉体を持つ北村に対して、細谷は長身で細身という正反対の2人。予測不可能な両者の試合、第1ピリオドは北村がフェイントを駆使しながら細谷にプレッシャーをかける。中盤に高速タックルで懐にもぐりこむと、押し出しで1点を先制。ラスト数秒で細谷が場外に押し出そうとするも、体を入れ替えて投げ技で3点を追加。細谷側のチャレンジ(ビデオチェック要求)の失敗もあって5−0と大量リードを奪った。

 だが、細谷は第2ピリオドから北村のタックルに対応。北村のタックルを見事にさばき、バックに回れば懐に入れ、長い手足を使って北村の体を固定しながらタックル返しを決めるなど6−0とやり返した(左写真=細谷の攻撃をしのぐ北村)

 勝負の第3ピリオド、北村は足を使ってフェイントを効果的に使うものの、タイミングを細谷に見抜かれ、生命線のタックルからテークダウンを奪えない。逆に、細谷にやや強引ながらもタックル返しを決められ2点を奪われ、流れは細谷へ。最後は、タックル返しを乗られて自滅し、1−6でタイムアップとなった。

■無冠に終わった最後のインターハイだが、挑戦の意味は十分にあった

 「ボク、弱いですね…」。苦笑しながら試合を振り返った北村だったが、表情はすがすがしい。「74s級で普通に優勝するだけでは物足りないと思ったので、挑戦する形を取りたかった。だから(タイトルを逃した)悔いはないです」と話し、高3の夏を駆け抜けたさわやかな笑顔を見せた。

 だが、身近な知人に声をかけられると、北村の表情がゆがみ、大粒の涙がほほを伝った。「…。負けて悔しいです」と本音が飛び出した。9月の新潟国体は96s級で出場し、今季の3階級制覇をモチベーションに練習を積んできた。できると思った自分の目標を達成できず、第3ピリオドでは試合中にも白い歯をこぼして、苦笑いを浮かべたが(右写真)、心の中はプライドが打ち砕かれていた。

 ジュニア(18〜20歳)に初挑戦した4月のJOC杯ジュニアオリンピックでは、長身の中井伸一(中大)に敗れて3位。今回の細谷もそのタイプだ。「どんなタイプでも勝てるように、1から攻め方を練習したい」。タイトルを取れなかった分、課題がはっきりと見つかった。

 北村公平の最後の夏は無冠―。だが、“安全株”の2連覇を捨てて84s級にチャレンジした意味は十分にあったインターハイ。試合後に細谷とすれ違うと、「負けるなよ、明日はおまえを応援するから」とライバルに直球でエールを送ると、細谷も力強くうなずいた。


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