【特集】1年生王者が2人誕生! 高橋侑希(いなべ総合学園)山崎達哉(自由ヶ丘学園)【2009年8月7日】

(文・撮影=増渕由気子)



 インターハイ個人戦で1年生王者が誕生した。それも2選手。1人は、55kg級を制した三重・いなべ総合学園の高橋侑希。2007・08年全国中学生選手権を2連覇している選手だ。1年生でインターハイ制覇という偉業も「狙っていました。いけるって監督にも言われて」と、本気で狙って今大会に臨んだ。

 このの階級の春の王者は、昨年の50kg級二冠王者の森下史崇(茨城・霞ヶ浦)。昨年12月の天皇杯全日本選手権では王者の湯元進一(自衛隊)からポイントを奪い、今年4月のJOCジュニアオリンピックカップでは、大学生が主戦場のジュニアの部で優勝。7月のアジア・ジュニア選手権で銀メダルを獲得し、高校生で現在、最も飛ぶ鳥を落とす勢いのある選手だ。その森下に今季国内で初黒星をつけたのだから、価値ある1年生チャンピオンだ。

■同じ全国中学V2でも、スタイルも歩んだ道も大きく違う両者

 「腰に手を回してくるので、差していなせ」―。団体戦にフル出場した森下を、高橋は藤波俊一監督と一緒に研究した。両選手とも全国中学生選手権を2連覇して話題になった選手だが、「練習も試合も一度もしたことがない」と肌を合わせたことなかった。だが、森下に抱く感覚が、スーパー1年生の高橋は違った。「勝てないって思わなかったです。どちらかというと『やってみたい』という感じ」。

 手足が長く、スピードと技で勝負する森下に対し、高橋はパワー系選手。森下が学生王者にまでなった父と同じ道を歩んでいるのとは対照的に、高橋は「小学校3年生の時、新聞の折込チラシに、レスリング教室の募集を見て始めた」という選手。いろんな面で正反対の選手だ。

 高橋が誰にも負けないと自負するのが、分厚い胸板を見れば一目瞭然の底知れぬ体力。「自信がすごくあります」。森下に勝った勝因は、第3ピリオドに持ち込み、足が止まった森下を体力でかき回し、最後にテークダウンを奪ったからだ。

 握力は70kgもあり、パワーもケタはずれに飛び抜けている。「国体でもう一回やって、それで勝てたら本物ですよね」と目を輝かせる高橋。レスリングセンス、そしてハートのでかさも尋常じゃないスーパールーキーが高校レスリング界に衝撃的なデビューを飾った(左写真=1年生王者の2人。右が高橋。左が山崎)

■史上初の1年生対決! ゴールドキッズ出身の山崎が勝つ!

 もう1人は、史上初の1年生同士の対決となった50s級を制した山崎達哉(東京・自由ヶ丘学園)。2007・08年全国中学選手権2連覇の太田忍(山口・柳井学園)を破って優勝を遂げた。山崎は都内の強豪キッズ・クラブのゴールドキッズの出身。会場にはクラブチームの監督である元世界チャンピオンの成国(旧姓飯島)晶子さんも応援に駆けつけていた。「全中ではずっと太田選手に勝てなかったんですよ」。決勝戦の相手は因縁の相手だった。

 その決勝はフルピリオドにもつれる接戦だった。山崎はタックルとアンクルホールドのワンツー攻撃で第1ピリオドを3−0でものにしたが、第2ピリオドは0−2と返された。第3ピリオドも先にテークダウンを奪われたが、この日の山崎はタックルがさえていた。中盤に1点を奪い返すと、足を止めずに相手の攻撃をブロック。1−1のラストポイントによって勝利し、何度も右手を突き上げ、ライバルの壁をインターハイという最高の舞台で乗り越えて見せた(右写真)

 50s級はシニアの部にはない階級。順調に育てば、いずれは山崎、太田の二人は55s級に階級アップをしてくるだろう。2004年アテネ五輪で田南部力選手が銅メダルを取り、2008年北京五輪で松永共広選手が銀メダルを獲得し、日本の新たな伝統の階級となりうる55kg級。未来の日本の55s級を背負うべく逸材の出現によって、層がますます厚くなりそうだ。


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