【特集】試合中に笑顔も! 最高に幸せな場所で燃えた永島聖子【2009年8月15日】

(文・撮影=樋口郁夫)



 結婚・出産を経て3年2ヶ月ぶりに試合のマットに立った永島聖子(旧姓山本=フリー)が、「全然考えてもいなかった」という優勝を、見た目にはあっさりとやってのけた(右写真=優勝後の永島聖子)

 「日本代表という重石もないし、復帰後の実力を試すための出場だったんですよ」。そのリラックスさが、ただでさえシャープな動きに磨きをかけたのだろうか、そのスピードの前に闘う相手はついていくことができなかった。

 大会に臨むにあたっては、やはり「緊張した」と言う。しかし、試合が近づくにつれ、「うれしくなって、ワクワクしてきた」。試合中は、ときおり笑顔を見せるほどリラックス。決して相手をなめていたわけではない。また、相手を挑発するスマイルでもない。

 最高に幸せな場所に再び立つことのできた喜びを体いっぱいに感じたからこその笑顔。レスリングができることの喜びを、何の足かせもなく表現した永島の行く手を邪魔する選手は、ポーランド・オープンにはいなかった。

■本人の採点は、100点満点中、1点!

 初戦(2回戦)の相手である2004年アテネ・2008年北京両五輪代表のオルガ・キソバ(旧姓スミルノバ、ロシア=カザフスタンから国籍変更)からして、永島の変幻自在の動きに対して、戸惑いの表情が浮かんでいた。永島のスピードある動きについていけず、後手、後手に回る展開。1998年世界ジュニア選手権で闘ったことのある両者が、永島は最近の試合については全く知らなかったという。「(知らないことで)かえってよかったかもしれませんね」。知識がない分、変に考えることもなく自分のレスリングを貫くことができたのだろう。

 1点もやることなく勝ち上がると、3回戦からの相手は徹底したコンタクト・レスリングで攻撃してきた。最近、世界が打倒日本の作戦としてやってきているのが、腕を取ったり、がっちり組み合ってその動きを封じること。長島もその術中に時にはまりかけ、「これは、まずい」と思ったことが何度かあるという(左写真=決勝で腕をかっちりつかまえられた永島)

 しかし「フットワークを使って、すぐに離れることを意識した」。4試合での失点は、場外に押し出された2失点だけだったことを考えれば、防御も満点に近かったと言える。

 だが、本人の採点は「100点満点中、1点」といった厳しいもの。「本格的に練習を始めて、6か月で頂点に立ったらおかしいです」というのが、その理由だが、これは謙そんの数字であることは言うまでもない。逆に考えるなら、この状態で「1」なら、「100になった時はどんな強さになるの?」と聞いてみたくなるような強さ。

 大会前は「(本名の)ナガシマで出るから、私のことをだれも知らないかも」と話していたが、今回の優勝で「セイコ・ナガシマ」の名前は、世界の59kg級の選手たちの間に一気に広まるはずだ。そのために多くの選手から研究され、次の闘いはこんな簡単に勝たせてもらえはしまい。事実、3回戦からの相手は徹底したコンタクト・レスリングで永島の動きを封じてきている。今回の優勝は“ビギナーズ・ラック”かもしれない。この優勝におごることなく、研究し前進しなければならないのは言うまでもない。

■勝利の陰に、浜口京子選手の思いやり

 今後は10月の全日本女子オープンに出場して、12月の天皇杯全日本選手権の出場権獲得を目指す。「この実績なら、推薦で(全日本選手権に)出られるんじゃない?」との問いに、「そんなことはないでしょう。最初からきちんとやります」と、あくまでも謙虚な姿勢を崩さない。

 その全日本選手権の出場階級は未定。「企業秘密? そんなものじゃありません。まだ、そこまで考えがいっていなかったんです」とのことで、今回出た59kg級のほか、2012年ロンドン五輪出場を目指すために必要な55kg級か63kg級へのエントリーも選択肢のひとつ。「広く考えていきます」と、行く手を決めつけず、その時の状況に応じて対処していきたいという。

 個人参加だったため、練習相手として行動を共にしたクレージー・ビーの阿佐光一郎コーチは「復帰後についてきた実力を、自信に変えていけば、もっと強くなっていくと思う」と今後に期待した。

 異国での山本を支えたのは阿佐コーチだけではない。この日の朝起きると、ドアの隙間に前日試合を終えた浜口京子選手からのメッセージがあり、「おにぎりがあるから、取りにきて」という内容だったという。「あのおにぎりが勝因でした」と永島。試合に負けて悔しい思いをしているであろう浜口選手のそんな思いやりが、大きな勇気になったようだ。

 自分の力で勝てた、などと思い上がることなく、他人への感謝の気持ちを忘れない人間味あふれるママさんの行く手には、五輪ロードがしっかりつながっているのだろうか(右写真=永島の行く先にあるものは?)


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