【特集】日本人の母を持つ世界チャンピオン、クラリッサ・チャン(米国)に聞く【2009年8月18日】

(聞き手=樋口郁夫、通訳=ビル・メイ)



 8月13〜14日にワルシャワで行われた女子の「ポーランド・オープン」は、世界選手権の前哨戦と位置づけられており、欧州や北米から強豪が集まった。米国も世界選手権の代表を中心としたメンバーが参加し、昨年の世界選手権(東京)の48kg級チャンピオンのクラリッサ・チャン(右写真)の姿もあった(クリック)。

 負傷のため大事をとって試合には参加しなかったが、世界の強豪の試合を視察して世界V2へ向けての準備は万全。福岡生まれの日本人の母を持つチャンに聞いた。


 ――世界選手権へ向けて、調子はいかがでしょうか?

 「調子は非常にいいです。これからの1ヶ月間でさらにしっかり仕上げていこうと思っています」

 ――今大会は棄権しましたが、どこをけがされたのですか?

 「けがの場所は秘密です(笑)。大事をとっただけであり、大きなけがではありません。世界選手権での闘いには何の影響もないと思います」

 ――昨年の世界選手権のあと、幼稚園の英語の先生として日本(岐阜・中津川)に滞在していましたが、その時の練習はどんなだったのでしょうか。

 「毎日練習したいと思いましたが、仕事もあり、思うようにはいかなかったです。本当に必要な練習はできませんでした。ただ、北京オリンピックと世界選手権が終わり、1年間の休養の時期と考えていましたので、焦りはなかったです。でも、そのうちに試合をとてもやりたくなりました」

■1年間休養の予定が、ファイターの血が騒ぎ、5ヶ月でマットに復帰

 ――今年3月のワールドカップ(中国・太原)で、米国チームから呼ばれましたね。

 「1年間の休養は長すぎました。予定を早く切り上げて、選手活動に復帰しました」

 ――その時は、まだ本調子ではなかったようですが。

 「本格的に練習を再開して3週間でした。ですから、個人としての目標はそれほど高いものではありませんでした。勝つことより、今の自分の力は世界のどのあたりにあって、何をしなければならないかを知る大会でした。結果として、4月に予定されていた全米選手権へ向けて、いい練習ができたと思います」

 ――ワールドカップで負けて(三村冬子と中国選手に敗れる)、闘争心に火がついたのでしょうか?

 「いえ、闘争心はワールドカップの前についていました。ついたから、マットに戻ったのです」

 ――それから5ヶ月。今の自分の位置は?

 「3月の時より上でしょう(笑)。アメリカのコーチから離れている間に、悪いくせが出ましたが、チームに戻ってしっかり指導を受けたことで、かなり修正されました」

 ――世界チャンピオンとして臨む最初の世界選手権ですが、プレッシャーは?

 「ノー・プレッシャーです(笑)。世界チャンピオンだとは思わず、初めて参加する世界選手権だと思っていますから」

 ――ライバルは?

 「エブリワン(みんなです)!」

 ――具体的に?

 「サカモト(坂本真喜子)、中国、アゼルバイジャン、ウクライナ、ロシア……、結局、エブリワンです(笑)」

■世界チャンピオンになり、もうひとつのタイトル(五輪チャンピオン)がほしくなった

 ――今後の目標は、もちろんロンドン五輪ですね。

 「そうです。北京オリンピックに出られたことは、とてもすばらしい経験でした。もう一度、あの経験をしてみたいと思っています」

 ――北京五輪の前は、そこで選手生活をやめる予定だったと聞いています。

 「アメリカの予選の前に、勝っても負けても辞めようと思い、日本で仕事をすることを決めました。でも、オリンピックに出られたことで、終わることができなくなりました。それほど、すばらしい経験でした。北京では優勝することができませんでしたが、まだ闘いたくなり、そのあとの世界選手権で頑張り、優勝することができました。それで、また闘いたくなりました」

 ――世界チャンピオンになった時の気持ちは?(右写真=昨年10月の世界選手権決勝で闘うチャン)

 「アメリカの女子は過去5人の世界チャンピオンしかいません。その中に入れて、とても栄誉なことだと思いました。もうひとつタイトル(五輪チャンピオン)がほしくなりました」

 ――地元の選手(坂本真喜子)にも勝ちましたね。

 「リードされても焦ることなく、自分を信じて闘いました。私はリラックスしてできましたが、サカモトさんはナーバスになっていたのではないでしょうか。でも、次も勝つつもりです」

 ――日本人のお母さんは、どうされていますか?

 「まだハワイに住んでいます。時々、里帰りして会っています。今年も世界チャンピオンになって報告に行きたいです」


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