【特集】菊池峻が復活優勝、前川勝利が2年生王者…霞ヶ浦重量級が意地の優勝【2009年8月20日】

(文・撮影=増渕由気子)



 全国高校生グレコローマン選手権に最終日(8月19日、千葉県・佐倉市民体育館)に、唯一、2階級で優勝したのは高校レスリング界の雄・霞ヶ浦(茨城)の重量級コンビ、84s級の菊池崚と120s級の前川勝利だった(右写真:前川=左=と菊池)

 霞ヶ浦は、8月の奈良インターハイの学校対抗戦ではV20の金字塔を打ち立てた。決勝では50s級から66s級まで一気に4連勝して花咲徳栄(埼玉)を下した。だが、翌日から行われた個人戦では、絶対王者の森下文崇(55kg級)が1年生に敗れる波乱。主将の砂川航祐も決勝で力尽き、個人タイトルは0に終わった。「団体優勝をしたのに、個人でタイトル0は初めて」と関係者。大沢友博監督にとっては、V20の喜びよりも個人V逸の悔しさが残った大会となってしまった。

 休み返上で全国高校生グレコローマン選手権に照準を合わせた霞ヶ浦だったが、初日の軽量級はどの階級も3位にも入れず惨敗。重量級も74s級、96s級と敗退し、84s級の菊池と120s級の前川の2人に優勝の希望は託された。

 この2人は共通点があった。3月の風間杯全国高校選抜大会、6月の関東大会、奈良インターハイと、花咲徳栄の84s級・細谷翔太朗と120s級・岡倫之の“黄金タッグ”に団体戦、個人戦ともに全敗。“タイトルを取れない重量級”という状態になってしまった。

■専門外のグレコローマンでリラックス! 精神的な壁を打ち破った菊池

 「実は僕たち、同じ部屋なんです」(菊池)。大会で負けるたびに2人で部屋にこもってふさぎこんだ。「試合の愚痴とか言い合ってましたよね(笑)」(前川)。特に菊池は細谷と同期で、以前は楽に勝てていたにもかかわらず最近5連敗。大沢監督と砂川主将が「練習では完ぺき」と認めるものの、それを試合で発揮できずにいた。菊池は「精神的な部分がだめだったんです」と振り返る。

 心のリハビリに功を奏したのが“グレコローマン”だった。フリースタイルが専門のため、今大会は「少し気が楽にできました」と菊池。試合前は常にピリピリモードで、マットに上がると頭が真っ白になってパニックを起こすこともあったフリースタイルとは違って、今回は試合前に仲間と談笑するなどリラックスして試合に臨めた。

 決勝では第1ピリオドにローリングを決められて落としたが、第3ピリオドに再びグラウンドのディフェンスに回ると、「相手の攻撃パターンが第1ピリオドで分かった」と冷静にさばいて、30秒間守りきった。“いつもどおり”がやっとできた(左写真=決勝で勝ってガッツポーズの菊池)

 今季、個人の決勝戦で負けること4回。試合終了のブザーが鳴ると、マットに顔をこすりつけて悔し涙を流す菊池だったが、久々に大沢監督に向けて勝利のガッツポーズ。「大沢監督にはたくさん怒られたが、優しさが感じられた」と菊池。スランプを脱して、やっと監督の期待に応えることができた。この復活Vをきっかけに、「国体で(今季の)2冠目を目指します」と宣言した。

 9月の新潟国体もグレコローマンに出場するため、フリースタイルに出場予定の細谷に高校在籍期間中にリベンジする機会はなさそう。だが、「細谷にはフリースタイルで勝ちたいから」と、大学に進んでからリベンジする腹積もりだ。

■インターハイ王者に名前のごとく“勝利”した前川

 一方、前川は1年生からレギュラーに入り、学校対抗戦では霞ヶ浦の“大将”としてその砦(とりで)を任されている。難攻不落の軽量級の活躍で、昨年から前川に3−3で勝負が回ってくることはなかったが、花咲徳栄戦では相手の“大将”岡に勝てずに、いつも黒星。チームは勝つが、前川は心底喜べない表情を浮かべていた。

 今季も2年生という状況に甘えず、3年生の先輩レスラーに果敢に挑戦。岡からは「毎回、対戦するたびに強くなってきている」と警戒されるまで成長した。3回戦では、インターハイ王者の村木孝太郎(滋賀・栗東)の強烈なローリングを持ちこたえて、ストレート勝ち。優先権を与えられたグラウンドの攻撃ではきちんとローリングを決める力も光った。

 驚異的なスピードで成長を遂げたのも、大沢監督の教えを忠実に守ってきたからこそだ。試合中、セコンドの声を100パーセント聞ける冷静さが前川にはあった。坂元将悟(大分・日本文理大付)の決勝戦、大沢監督が「左を差せ」「右手を張れ」「落とせ」と適宜アドバイス。大沢監督の声が埋もれてしまうほどの大歓声があがっても、セコンドの指示どおりに前川は動き回り、坂元に何もさせなかった(右写真=優勝を決め、大沢監督に抱きつく前川)

 春の全国高校選抜大会、6月の関東大会、今月の奈良インターハイとタイトルを逃し続けて肩身の狭かった霞ヶ浦の重量級コンビ。その2人が霞ヶ浦の優勝者0のピンチを救った。

 森下、砂川ら霞ヶ浦の軽量級メンバーは全員3年生。来年はメンバーが一新する。だが、2年でチャンピオンになった前川が“大将”に居座る霞ヶ浦は、来年も強いチームが期待できそうだ。


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