【観戦記】全国高校生グレコローマン選手権見て【2009年8月24日】

(文・撮影=増渕由気子)



 奈良インターハイと全国高校生グレコローマン選手権が終了した。インターハイでは1年生チャンピオンが2人も誕生する衝撃的な結末だったが、全国高校生グレコローマン選手権では120s級以外は3年生が栄冠を勝ち取り、1年生の台頭はなかった。関係者は「キッズ教室では基本的にフリースタイルしかやりませんからね。グレコローマンは、インターハイが終わった後の1週間くらいに練習するのが普通でしょう」と、新人の台頭がない理由を分析する。

 持ち上げこそがグレコローマンの真髄だとして、国際レスリング連盟(FILA)がクロス・ボディ・ロック(俵返しの組み手)からのグラウンド・ルールを取り入れた2005年以降、当初はグレコローマンの試合でリフト技が目立った。だが、リフトの防御が研究されると、失敗のリスクが高いリフトをやめ、スタート直後に組み手を変えてガッツレンチで攻めるのが主流になった。今年2月、FILAはクロス・ボディ・ロック、ノーマル・パーテールポジションのどちらから攻撃を開始してもOKというルールに修正した。

 昨年までは高校界でもリフト技が目立った。しかし今年は、グレコローマンの経験がほとんどないこともあって、9割以上がパーテール・ポジションから攻めた。フリースタイルと“ほとんど同じ技術”で闘えるからだ(左写真=グラウンドの優先権を得て、パーテール・ポジションから攻める昨年高校五冠王の北村公平=京都八幡高。ほとんどの選手がパーテール・ポジションからグラウンドを開始した)

 インターハイ55s級で1年生王者に輝いた高橋侑希(三重・いなべ総合)は、グレコローマンでもスタンドで守って、グラウンドでガッツレンチ(ローリング)で仕留める作戦で3回戦を勝ち抜いた。だが、4回戦の石原拓朗(山梨・韮崎工)との対戦で、俵返しを受けて3失点。このピリオドを落として敗退した。高橋は3位決定戦にまわり、奇しくもくインターハイ決勝と同じ鈴木優大(栃木・足利工大付)と対戦することになった。

■リフト技ルールを経験していた鈴木が一枚上手に

 スタイルは違えど、2週間後にめぐってきた同カードは、鈴木が2−1で逆転勝ちを収めることになる。試合の流れはこうだった。スタンドでは終始、鈴木のほうがグレコローマンらしい動きをしたが、第1ピリオドは、グラウンドでオフェンスに回った高橋が、ガッツレンチ地獄で、テクニカルフォールで奪う。

 第2ピリオドは鈴木が起死回生の1本背負いで3点を奪取。鈴木がこのピリオドを返した。だが、パーテール・ポジションからのグラウンドは無得点に。このとき、鈴木は「(高橋の)ディフェンスが堅く、ガッツレンチは取れないと思った」と振り返る。

 第3ピリオドは、スタンドでは両者得点なし。グラウンド戦では、トータルの得点が多い高橋が防御を選択した。30秒守り切れば高橋の勝利。高橋のローリングは得点力が高いので、防御ではなく攻撃を選択してもいいように見えたが、夏場の第3ピリオドは汗ですべることが多い。高橋の選択は一瞬、賢明に見えた。

 一方、攻撃権を与えられた鈴木は「チャンスだと思った」という。「(相手は)1年生だし、去年までのルールは経験してない。持ち上げに関するディフェンスはできないだろう」と瞬時に判断し、第2ピリオドとは違うクロス・ボディ・ロックの体勢にセット。ホイッスルと同時に見事な俵返しを決めた。1年と3年生−。グレコローマンの経験の差が顕著に出た試合だった(右写真)

■日本ジュニアのグレコローマンの強化の行方は

 昨年、120kg級の平川臣一(専大)が世界ジュニア3位の快挙を成し遂げたが、概して言えば、グレコローマンの日本ジュニアチームは苦戦が続いている。今年の世界ジュニアでは2勝を挙げた選手がなく、1勝を挙げた選手も2名に終わった。

 残念な結果だが、全日本チームのグレコローマン・コーチでもある嘉戸洋・環太平洋大監督が「日本は高校までフリースタイルが主流。大学に入ってグレコローマンの専門選手として練習を始めることがほとんど。グレコ歴が1、2年しかないジュニアの選手が、すぐに世界で勝てるわけがない」と話すように、経験の差が結果がに表れた格好だ。

 日本といえば「フリースタイルの軽量級」といわれるように、ウクライナでは、日本とは逆にちびっ子からグレコローマン一本で練習を積んでいる選手もいる。若いうちから世界で勝てるのもうなずける。近年、アジアのグレコ大国となった韓国では、中学生の時点で、専門スタイルを選択して、その後はそのスタイル一本で練習を積んでいるという。

 幸いにも、グレコローマン55kg級の世界選手権代表の長谷川恒平(福一漁業)が国際大会で4大会連続で優勝し、5月のアジア選手権でも長谷川を含む4選手が表彰台に上がった。シニアでは世界で闘える戦力は十分で、9月の世界選手権(デンマーク)では長谷川に金メダルの期待もかかる。

 だが、FILAが今後、フリースタイルとグレコローマンのルールの区別化をさらに広げる可能性もある。そうなると、大学からの強化では間に合わず、高校におけるグレコローマンの強化がさらに必要になってくる。今回、例に挙げた1年生対3年生の試合のように、競技は経験が命。高校におけるグレコローマンの強化の行方が気になるところだ。


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