【特集】世界選手権へかける(6)…男子グレコローマン84kg級・斎川哲克(両毛ヤクルト販売)【2009年8月30日】

(文=増渕由気子)



 男子で今年の世界選手権に初出場するのは、14選手中11人にものぼる。グレコローマン84s級代表の斎川哲克(両毛ヤクルト販売)もその一人。斎川は、長らく同スタイルのエースとして日本を引っ張った松本慎吾(日体大教=現全日本コーチ、選手時代のことにつき敬称略)の後を引き継ぐべく逸材として、早くから期待されていたホープだ。

 身体能力が高く、大学1年で全日本学生選手権を制した頃から“ポスト松本”と注目を浴びた。練習場所は松本と同じ。松本の背中を追って必死に食いつき、闘志をみなぎらせて向かっていった。

■アジア選手権のマットに上がった瞬間、過去に例がないほどの緊張感に襲われる

 松本が北京五輪を最後に引退すると、斎川は昨年12月の天皇杯全日本選手権大会で順当に初優勝を遂げた。5月のアジア選手権(タイ)の代表に当確すると、「気持ちも盛り上がって、リラックスできていた」と、調子よく練習を積んでいた。

 そのアジア選手権の初日、同世代の長谷川恒平(グレコローマン55s級=福一漁業)が金メダルを獲得。大学の後輩の佐藤亮太(同60s級=カンサイ)もシニア国際大会の本格的デビュー大会で銅メダルに輝いた。軽量級の活躍を見て、斎川は「自分もその流れに続きたいと思った」と振り返る。

 気持ちを盛り上げて挑んだ初戦だったが、斎川に異変が起こる。「マットに上がった瞬間、アレ? って思いました。あそこまで緊張した試合はありません」。台湾のリン・ミンフスアンにテクニカルフォールを奪われるなどしてストレートで敗退。その台湾選手は3位入賞を果たした強豪選手だったが、斎川のショックは大きかった。「アジアの中で、ボクは弱いですね…」。ほろ苦いシニアの本格デビュー戦だった。

■世界選手権での健闘が、故郷・栃木への恩返し

 その後、6月の明治乳業杯全日本選抜選手権で優勝して初の世界選手権行きの切符を手にするが、内容は最悪だった。学生チャンピオンの尾曲伸乃佑(青山学院大)に第3ピリオドの残り5秒までリードを許すというふがいない試合をしてしまった(右写真:尾曲に大苦戦の斎川=赤)。「弱いから、そうなるんですよね」と斎川。アジア選手権から2大会連続で精神面の弱さが課題として浮き彫りになった。

 表彰式後のインタビューでは、「情けなかった」と、ふがいなさから涙がこぼれた。その涙のわけはもう一つあった。6月に故郷・栃木県の足利工大付出身のプロレス界のスター選手、三沢光晴(プロレスリング・ノア代表)が試合中の事故により亡くなった。「逃げない姿勢が好きだった」と大ファンだった斎川は、報道陣から同郷のスーパースターについての質問が飛ぶと、人目をはばからず号泣した。

 「栃木、大好きなんです」と斎川の故郷に対する気持ちは人一倍強い。昨年の国体で3連覇した際にも、「この栃木という誇りのために闘っていると」と声高らかに話した。

 「今年は国体4連覇を」といきたいところだが、日程が世界選手権とかぶってしまって出場は不可能。故郷への想いも、すべて世界選手権にぶつける。そのためにも「結果はほしい」と、どん欲に上位を狙っていく予定だ。

 今年3度目となる公式戦。精神的な強さを身に付けるために、斎川が選んだ方法は、「練習の量と質の向上」だった。「それをやれば、必然的に(緊張感や不安)は消えるはず」。世界デビューで斎川が日本重量級のプライドを見せる−。(左写真=全日本合宿で練習に励む斎川)


斎川哲克(さいかわ・のりかつ)=両毛ヤクルト販売

 1986年3月11日、栃木県生まれ、23歳。栃木・足利工高〜日体大卒。高校時代の2003年にJOC杯ジュニアオリンピック・カデット、全国高校生グレコローマン選手権、国体で優勝し、アジア・カデット選手権でも優勝。

 日体大へ進み、2004年に1年生で全日本学生選手権に優勝。同年の全日本選手権では2位に入賞した。その後、けがによる戦線離脱もあったが、2007年には2階級にまたがって学生四冠王に輝き、フリースタイルででも実力を見せた。同年全日本選手権は96kg級で北京五輪出場を目指したが、かなわなかった。

 2008年は国体96kg級で北京五輪代表を破って優勝し、全日本選手権では本来の84kg級で初優勝。2009年はアジア選手権に出場した。185cm。

 ◎斎川哲克の最近の国際大会成績

 《2009年》

 【ニコラ・ペトロフ国際大会】8位(14選手出場)
1回戦 ○[2−0(3-0,3-0)]Danierl Kardashliev(ブルガリア)
2回戦 ●[0−2(0-1,0-1)]Ahmed Yildirim(トルコ)

 【ハンガリー・カップ】12位(20選手出場)
1回戦  BYE
2回戦  ●[1−2(0-4,6-0,0-3)]David Karchava(グルジア)
敗復戦 ●[0−2(0-5,0-7)]Ahmet Yildirim(トルコ)

 【アジア選手権】11位(11選手出場)
1回戦 ●[0−2(0-6,0-4)]LIN, Ming-Hsuan(台湾)


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