【特集】世界選手権へかける(8)…男子フリースタイル74kg級・長島和幸(クリナップ)【2009年9月2日】

(文=増渕由気子)



 故八田一朗氏の手によって日本で最も早くレスリング部がスタートした早大。その名門から今年、1991年の石沢常光(フリースタイル82kg級=現プロレスラー)以来の世界選手権代表が誕生した。フリースタイル74kg級代表の長島和幸(クリナップ=左写真)だ。

 長島は、1999年高校四冠王、2001年世界ジュニア選手権6位、2001〜03年全日本学生選手権3連覇、2004年世界学生選手権3位、2006〜08年全日本選手権3連覇と、すばらしい成績を残してきたエリート選手。1990年代に低迷してしまった早大を、再び強豪チームに押し上げた原動力にもなった。

■北京五輪出場を逃したが、3拍子そろった環境が現役続行を後押し

 2004年アテネ五輪も狙えた逸材だったが、学年が一つ上だった世界選手権5度出場の小幡邦彦(現山梨学院大職)に一歩及ばなかった。その後、「競技は北京五輪まで」と決めて2008年まで走ってきたが、五輪予選となった2008年3月のアジア選手権(韓国)は3位に終わり、五輪出場権を獲得できず。

 スイスで行われた五輪一次予選は初戦敗退で、再び代表権を手にできず、最終予選は若手の高谷惣亮(拓大)に代表権を奪われる屈辱。同年6月の全日本選抜選手権は欠場し、このまま引退してしまうのかという寂しさを漂わせた。

 だが、長島はマットに戻ってきた。9月の大分国体で優勝すると、年末の全日本選手権では3連覇を達成。現役続行をアピールし、フリースタイルのエースとなるべく全日本チーム入りを果たした。

 27歳となり、全日本チーム最年長として臨む初の世界選手権。目標の北京五輪を逃した直後は引退をにおわせる言動がしばしばあり、妻のリンデルさんは「落ち込んでいた」と振り返る。だが、進退を考えた時、ふと見ると、自然とレスリングができる環境が整っていた。

 家族の支え、周囲の応援、会社のバックアップ。3拍子がそろった抜群の環境が現役続行を後押しすることになった。「今、ここで競技ができていることに感謝したい」と話すように、その気持ちは毎日マットの上で感じている(右写真=2年前に国際結婚したリンデル夫人のサポートで世界選手権に出場する長島)

■挫折を経験した“元エリート”が世界へ初挑戦

 長島にとって初の世界選手権は、早大卒としては石沢以来18年ぶり、クリナップとしては2003年の諏訪間幸平(フリースタイル120kg級=現プロレスラー)以来6年ぶりの世界代表となった。所属、大学の期待は大きく、先日は都内で早大関係者による激励会が盛大に行われた。

 大きな期待がかかる長島だが、気持ちが空回りすることはない。それもそのはず。ジュニア時代から海外での試合経験を多く積んでいるため、調整はお手のもの。「冷静でいられる」と平常心で本番を迎えられそうだ(左写真=早大の太田拓弥コーチと練習する長島)

 その器のでかさがチームの主将としても役に立っている。「それぞれ所属が違うけど、みんなが気を使わないようにコミュニケーションをとっている」と、周囲への気配りもできているようだ。

 今年5月のアジア選手権(タイ)の3位決定戦では、終盤の失速で2大会連続の銅メダルを逃してしまった。「世界で闘うためには組み手が重要。外国選手が嫌がる組み手をしたい」。世界選手権では、自分の間合いで試合が運べるかがカギとなりそうだ。海外経験が豊富なだけに、各国の情勢も「だいたい、分かっている」と把握済みだ。

 「代表として出るからには、優勝を目指して頑張りたい」と長島。小幡邦彦の壁を越えられなかったアテネ五輪への道、若手の台頭に歯車が狂ったROAD TO北京。様々な試練を乗り越えて、長島が世界へ出陣する−。

長島和幸(ながしま・かずゆき)=クリナップ

 1981年9月25日、群馬県生まれ、27歳。太田倶楽部出身。群馬・館林高〜早大卒。高校時代の1999年に双子の兄・正彦とともに四冠(全国高校選抜大会、インターハイ、全国高校生グレコローマン選手権、国体)を制覇。早大へ進み、2000年にJOC杯ジュニア選手権76kg級で優勝し、世界ジュニア選手権へ出場。

 翌2001年もJOC杯に勝ち、世界ジュニア選手権は6位入賞。同年、全日本学生王者へ。2002年は学生二冠を制し、世界学生選手権で6位。2004年は世界学生選手権で銅メダルを獲得。その後、2006年に全日本選手権初優勝。しかしプレーオフで敗れ、2007年世界選手権へは出場できず。

 2007年全日本選手権で優勝し、2008年アジア選手権で銅メダルを獲得したが、北京五輪出場は逃した。2008年全日本選手権で3連覇を達成。今年の全日本選抜選手権で優勝し、世界選手権出場を決めた。175cm。

 ◎長島和幸の最近の国際大会成績

 《2007年》

 【ヤシャ・ドク国際大会】
1回戦 ●[0−2(3-4,1-2)]Yusuf Kose(トルコ)

 【アジア選手権】5位(10選手出場)
1回戦   BYE
2回戦  ○[フォール、1P0:46(F5-0)]Wanna Sitthichai(タイ)
準決勝 ●[0−2(2-3,0-1=2:03)]Wu Zuian(中国)
三決戦 ●[0−2(0-1=2:04,1-2)]Lee Sang-Kyu(韓国)

 【NYACオープン国際大会】9位(17選手出場)
1回戦  BYE
2回戦  ●[0−2(0-1,0-2)]Travis Paulson(米国)
敗復戦 ○[2−1(4-1,0-4,7-0)]James Allen(米国)
敗復戦 ○[不戦勝]Shamil Batirov(ロシア)
敗復戦 ●[0−2(0-2,2-3)]Trent Paulson(米国)

 《2008年》

 【アジア選手権】3位(11選手出場)
1回戦  ○[フォール、2P1:16(4-0,4-0)]Ramze Salah Almarafi(ヨルダン)
2回戦  ●[0−2(0-1,0-1=2:05]Cho Byung Kwan(゙炳官=韓国)
敗復戦 ○[2−0(2-1,6-4)]Bazarbayev Abdurauf(ウズベキスタン)
三決戦 ○[2−1(2-1,0-1,CL-4)]SHAPIYEV Abdulkhakim(カザフスタン)

 【五輪予選第1戦】28位(29選手出場)
1回戦 ●[0−2(0-1=2:04,0-7=1:24)]Alexandru Burca(モルドバ)

 《2009年》

 【ヤシャ・ドク国際大会】=36選手出場
1回戦  BYE
2回戦 ●[0−2(2-3,0-3)]Batuhan Demircin(トルコ)

 【ダン・コロフ国際大会】5位(14選手出場)
1回戦  ○[2−0(1-1,TF6-0=1:03)]Mohamed Zakaria(エジプト)
2回戦  ○[2−0(3-0=2:03,1-0)]萱森浩輝(新潟・新潟県央工高教)
準決勝 ●[0−2(0−3,0−1)]Krystian Brzozowski(ポーランド)
三決戦 ●[0−2(TF0-7=1:56,3-3)]Ivan Deliverski(ブルガリア)

 【アジア選手権】5位(13選手出場)
1回戦   BYE
2回戦  ○[フォール、1P(F8-0)]W.S.D.S, Fernando(スリランカ)
準決勝 ●[0−2(0-2,1-3)]Abdulkhakim Shapiyev(カザフスタン)
三決戦  ●[0−2(3-4,1-3)]Kim Jin-I(韓国)


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