【特集】世界選手権へかける(9)…男子グレコローマン120kg級・新庄寛和(自衛隊)【2009年9月3日】

(文=樋口郁夫)



 2007年世界選手権(アゼルバイジャン)でのグレコローマン96kg級・加藤賢三の5位入賞ほどのインパクトはなかったが、2008年アジア選手権(韓国)ではグレコローマン120kg級で新庄寛和(自衛隊=左写真)が銅メダルを獲得。日本のグレコローマン最重量級に、12年ぶりにアジアのメダルをもたらした。

 日本協会が断行した2006年アジア大会(カタール)での「重量級派遣カット」という荒治療は、選手の発奮という好結果をもたらしている。今年の世界選手権には、その新庄が2007年大会に続いて出場する。「前回は1回戦負けだった。(世界選手権を)経験したので、今度は勝たなければ。入賞を目標に挑みます」。

 結果を出せなければ、来年11月のアジア大会(中国・広州)で、またも「重量級派遣カット」という“仕打ち”が待っているかもしれない。「前回は本当にカットされたのですからね…。世界で通用するところを見せないとならない」と、気合を入れている。

■組み合わせの運ではなく、実のある内容だった2008年アジア3位

 2008年アジア選手権での銅メダルは、出場選手数の少ない階級にありがちな組み合わせの運によるメダル獲得ではない。初戦で2006年アジア大会と2007年アジア選手権(キルギス)でともに3位になっているヌルベク・イブラギモフ(キルギス)を撃破。3位決定戦では、地元から北京五輪出場を目指す韓国選手を2−0で下した実のある内容。グラウンドの防御で返されない強さが光った(右写真=銅メダルを決めガッツポーズの新庄)

 それまでにもシニアの国際大会に4度出場していたが、6試合で1ピリオドも取れない内容だった。それらの経験をもとに「まずグラウンドのデフェンス」と強化を続けた結果だった。

 今はルールが変わり、グラウンドの防御以上に、まずスタンド戦での闘いを考えなければならない。加藤賢三の首投げのように、スタンドでの必殺技を特に持っていない新庄にとっては一見不利になったように思える。しかしスタンド戦「1分」が「1分30秒」に伸びたことで、逆に勝機をつかむチャンスも出てきたと分析している。

 外国選手はパワーが日本選手より優れている一方で、スタミナ面で難点があり、1分をすぎると攻撃してこない傾向をつかんだ。「最初の1分をしのぐこと。バテたところで攻撃し、場外へ押し出してもいいから1点を取ることができれば、そのピリオドを取れる」。外国選手とパワーの真っ向勝負などはしない。日本選手の特性を生かし勝利を目指す腹積もりだ。

■遠征に不参加だった冬から春にかけ、徹底した筋力強化

 そのためには、真っ向勝負をしなくとも爆発的なパワーをしのぎ切らなければならない。それには体力強化だ。昨年12月の全日本選手権は決勝で中村淳志(カンサイ)に敗れ、冬の欧州遠征と5月のアジア選手権(タイ)には不参加だったので、筋力強化は十分にこなしてきた。

 以前は、筋力強化といえば上半身が中心だった。今は下半身も積極的にやっている。「相手のパワーに押し負けずに前に出るには、上半身だけではなく下半身の力が必要なんです」と、経験をもとに考えた筋力トレーニングを敢行。ばく然とこなしているのではない(左写真=全日本合宿でライバルの中村淳志と練習を積む新庄)

 また、全日本チームでグレコローマン重量級を担当している松本慎吾コーチ(日体大教)との打ち込みやスパーリングからも、外国選手のパワーをしのぐ術を学んでいる。体重は松本コーチより自分の方があり、相手にかける圧力は上のはずだが、松本コーチの組み手のうまさや足の動きの速さなどに翻ろうされ、なかなかポイントを取ることができない。

 体が大きい外国選手と闘う時は、自分が松本コーチの動きをすればいい。外国選手相手でも、技術によってその攻撃をしのげ、勝機を得られると信じている。

 昨年のアジア選手権で銅メダルを取った時は、マットサイドから伊藤広道監督(自衛隊)の激励の声がよく聞こえ、闘志を奮い立たせることができたという。デンマークのマットに立った時は、もっと耳を澄ませてほしい。日本の重量級の選手たちの声が、必ずや聞こえることだろう。「重量級の選手の意地を見せてくれ! 日本の重量級を盛り立てよう!」という声が−。

新庄寛和(しんしょう・ひろし)=自衛隊

 1982年10月11日、大阪府生まれ、26歳。京都・南京都高〜国士大卒。高校2年の時(1999年)に国体ベスト8などの成績を残し、3年生でインターハイ2位、全国高校グレコ選手権と国体で優勝した。国士大へ進み、2002年にJOC杯ジュニアオリンピックや東日本学生春季新人戦で優勝。全日本大学グレコ選手権も4位入賞と実力アップ。

 2003年はアジア選手権に出場し6位。2004年は全日本選抜選手権で2位へ食い込み、全日本選手権で優勝。2005年にアジア選手権5位。その後、優勝から見放されたが、2007年にアジア選手権出場を経て、世界選手権に初出場(初戦敗退)。全日本選手権でも優勝し、2008年アジア選手権で3位に入賞。

 北京五輪出場は逃し、同年の全日本選手権は2位。しかし2009年全日本選抜選手権で勝ち、プレーオフでも勝って世界選手権出場を決めた。181cm。

 ◎新庄寛和の最近の国際大会成績

 《2007年》

 【アジア選手権】8位(8選手出場)
1回戦 ●[0−2(0-5,TF0-6=2:00)]Murodjon Tuichiev(タジギスタン)

 【世界選手権】23位(36選手出場)
1回戦 ●[0−2(1-@L,1-@L)] Mindaugas Mizgaitis(リトアニア)

 《2008年》

 【アジア選手権】3位(8選手出場)
1回戦  ○[2−1(@L-1,0-2,2-1)]Nurbek Ibragimov(キルギス)
準決勝 ●[0−2(TF0-7=1:26,TF0-7=1:22)]David Saldadze(カザフスタン)
3決戦  ○[2−0(@L-1,2-1)] Hong Hyun Hee(韓国)

 【五輪予選第2戦】19位(20選手出場)
1回戦  BYE
2回戦 ●[0−2(0-6,0-3)]Revaz Kelidze(グルジア)


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