【特集】世界選手権へかける(12)…男子グレコローマン96kg級・北村克哉(FEG)【2009年9月7日】

(文=樋口郁夫)



 2007年の世界選手権(アゼルバイジャン)で加藤賢三が5位に入賞した男子グレコローマン96kg級。今年の世界選手権で同級に出場するのが、フリースタイルで世界選手権出場経験を持つ北村克哉(FEG=左写真)。2年前の加藤の快挙を引き継ぎ、「日本の重量級もやればできる」ことを証明しなければならない重要な役割を持つ。

 「最善を尽くしたい。ひとつでも多く勝ちたい」。今年の冬、欧州遠征に参加して世界のグレコローマン重量級のレベルを肌で感じているだけに、北村の口からは決して大言壮語は出てこない。しかし、これまで重量級は冬の遠征に連れて行ってもらえなかったが、今年は連れて行ってもらった。「その経験を生かしたい。佐藤(満)強化委員長の方針にこたえたい」と、結果を残さねばならない立場にあることは十分に承知している。

■You-Tubeで外国選手のビデオを探し、そのファイトを研究

 冬の遠征は、試合以外にも外国選手と練習する絶好のチャンスでもある。合同合宿では当然外国選手と練習するが、試合の前々日、前日の練習ででも外国選手と練習することができる。実際に欧州選手同士は、顔見知りだからかもしれないが、けっこう練習している。ところが日本選手は、手の内を知られたくないからか、それとも仲間意識が強いからなのか、試合前は自国選手同士で練習をすることの方が多い。

 北村は、そうした機会でもけっこう外国選手とやったという。「向こうにすれば、調整の相手として、ちょうどいいと考えているんじゃないですか(笑)。けっこう『やろう』と申しこまれました」。理由はどうであれ、経験のために来た海外遠征なのだから、断る理由はない。「積極的にやりました。日本選手とやるのとは全然違います。いい経験でした」と振り返る(右写真=今年2月ののニコラ・ペトロフ国際大会でロシア選手と闘う北村)

 その経験は「今の自分に絶対に生かされていると思います」と言う。また、多くの外国選手と手合わせすることで、外国選手に対して目が向くようになり、研究もするようになった。チームが撮影したビデオのみならず、You-tube(あらゆる分野の動画を集めたインターネット・サイト)でライバルと目される選手の試合ビデオを探し、それを見て研究したりもしている。海外遠征のおかげで、世界で闘うための意識が高まったようだ。

 その意識の高まりを、どうやって勝利へつなげていくか。「いいポジションをキープすることだと思います。アジア選手権では相手に合わせてしまった。自分のスタイルを確立していかねばなりません」。試合で使えるような投げ技は持っていないので、いい体勢をつくりつつ相手を崩し、胴タックルや場外への押し出し、がぶってバックを取るなどで勝機を見い出していきたいという。

 よく「外国選手はスタミナがなく、後半ばてる」と言われているが、北村は「そんなことはない」と言う。「スタミナのある選手はあります。外国選手というくくりではなく、それぞれの選手の特徴を把握して臨むべきです。ばてているように見えても、ここぞという時に出す力はすごい選手もいる。日本選手にはない瞬発力。慣れていなければ、やられる。グラウンドで一気に持ち上げられてしまいます」と言う。これも欧州遠征で体験したこと。そのことを体で知っているだけでも、世界で闘うためのプラス材料だ。

■ドーハ・アジア大会の派遣カットの悔しさは、もう2度と味わわない!

 グレコローマンに転向して3年目。6月の全日本選抜選手権は、3試合のトータルスコアが23−0という圧勝で優勝。国内では文句なしの立場を築いているが、キッズ時代からグレコローマンに取り組んでいる欧州の選手には、まだ及ばないのが現実だ。

 しかし、キャリアの浅さを理由に負けを肯定するつもりはない。結果を出さなければ、来年のアジア大会(中国)の派遣カットという“仕打ち”が待っているかもしれない。3年計画で強化すればいい、という気持ちにはなれない。「自分がダメなら、国内の2番手、3番手に選手に申し訳ない。試合に出られないとなったら、モチベーションが下がります。そんなことにはしたくない。(今年)結果を残したい」(左写真=全日本合宿で練習する北村)

 控えめな言葉が続いていた北村だったが、この話になった時は語気が強まった。2006年ドーハ・アジア大会では、本来フリースタイル120kg級に出場できるはずだったのが、重量級派遣カットの方針のもとで閉ざされた。悔しい思いをした張本人だけに、あの思いはしたくないという気持ちが強いようだ。「メダルとは言わない。最低でも入賞しなければ」−。

 3年前の悔しさを晴らすとともに、日本の重量級を盛り上げるために全力投球だ。

北村克哉(きたむら・かつや)=FEG

 1985年12月14日、東京都生まれ、23歳。東京・東京工高(現駒場高)〜専大卒。高校時代の2003年に全国高校選抜選手権とインターハイの85kg級でともに3位。国体フリースタイル97kg級で優勝。専大へ進み、2004年JOC杯ジュニア選手権フリースタイル96kg級3位へ。

 2005年に120kg級で全日本学生選手権を制し、全日本大学選手権は3位。全日本選手権でも3位に入賞した。2006年の全日本選抜選手権で勝ち、世界選手権へ出場。その後、グレコローマンに転向し、2007年に学生二冠王者(全日本学生選手権、全日本大学グレコローマン選手権)へ。2008年は国体120kg級で優勝したあと、全日本選手権96kg級で優勝。

 2009年はアジア選手権へ出場したあと、全日本選抜選手権で優勝して世界選手権代表を決めた。182cm。

 ◎北村克哉の最近の国際大会成績

 《2008年》

 【デーブ・シュルツ国際大会】
1回戦  ●[フォール、1P1:28(0-6)]Justin Ruiz(米国)
敗復戦  BYE
敗復戦 ●[2−0(2-0,3-0)]Margulan Assembekov(カザフスタン)

 【世界学生選手権】7位(8選手出場)
1回戦 ●[0−2(1-2,1-3)]Yavuz Guevendi(トルコ)

 《2009年》

 【ニコラ・ペトロフ国際大会】13位(17選手出場)
1回戦   BYE
2回戦  ●[0−2(0-1,0-2)]Serkan Ozden(トルコ)
敗復戦 ●[1−2(0-2,1-0,0-3)]Konstantin Efimov(ロシア)

 【ハンガリー・カップ】24位(27選手出場)
1回戦 ●[0−2(0-2,0-3)]Vladzimir Marusav(ベラルーシ)

 【アジア選手権】8位(10選手出場)
1回戦  BYE
2回戦 ●[1−2(0-2,5-2,0-1)]Kumar Anil(インド)


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