【特集】世界選手権へかける(13)…男子フリースタイル84kg級・松本真也(警視庁)【2009年9月8日】

(文=増渕由気子)



 14人中10人が世界選手権初出場という新生ジャパン男子チーム。フリースタイルでは84kg級の松本真也(警視庁=左写真)だけが2度目のアドバンテージを持っている。 2006年大会(中国)に初出場し10位という成績を残した。当時、日大の4年生だった松本は、フリースタイル60kg級で銅メダルに輝いた高塚紀行(当時日大3年)とともに、日大旋風を巻き起こした。

 その後、階級アップしてきた鈴木豊(自衛隊)との闘いに敗れて北京五輪の道は断たれたが、鈴木が引退し、84kg級の次期チャンピオンとして呼び声が高かったのは松本だった。

■次期エース候補に挙げられるも学生に不覚

 昨年12月の全日本選手権。優勝候補筆頭の松本は、2回戦で学生チャンピオンの松本篤史(日体大)と対戦することになった。高校8冠王(全国高校選抜大会2回、インターハイ3回、国体3回)と生粋のエリートの松本は、69kg級から徐々に階級アップしてきた松本篤史に対して、「練習どおりやれば絶対に勝てる」という自信があった。

 だが1−2でまさかの敗北。2012年ロンドン五輪に向けての最初の大会でつまずいてしまった。「自分にあきれてしまった」と振り返る松本。“次期エース”という呼び声に浮かれてしまったようで、「試合に対する挑み方が甘かった。なめた部分がありました」と反省の言葉を並べた。

 「ボクは気持ちで左右される選手なんです」と話すように、2回戦で負けた直後は、かなり落ち込んだ。どん底の松本を支えてくれたのは、小平清貴、田南部力、豊田雅俊の警視庁の若手コーチ陣(いずれも現全日本コーチ)だった。「悪いところは厳しく指摘してもらいましたが、逆に、(気持ちを)持ち上げてくれました」。

 コーチ陣の励ましにより、精神的に集中できた今年6月の全日本選抜選手権の決勝では、松本篤史に何もさせず優勝。全日本選手権優勝の小幡邦彦(山梨学院大職)が欠場したため、プレーオフなしで3年ぶり2度目の代表権を獲得した(右写真=世界選手権の出場を決め、警視庁をアピールする松本)

■警視庁の誇りをもって、前回の記録を超えて見せる

 前回は、怖いもの知らずで臨み、ニューフェースならではの生き生きとしたレスリングを展開。残り数秒から逆転のハイクラッチを決めるなど、初出場としては松本らしさを十分に出せた。入賞ではなかったが、“うれしかった”10位と言ってもいいだろう。

 大学4年をピークに社会人になってからは結果の出ない苦しい日々が続いた。だが、「そういう(スランプの)時期があったから、今、日の目を見られるんです。世界に出られなかった3年間は、(成長するには)よかった」と前向きにとらえている。

 スランプと自ら認める3年間だが、技術的にはかなりの成長を遂げている。「片足タックルからの処理が早くなったと言われます」。目指す順位は“シングルナンバー”。そして、「警視庁は強いんです、ということをアピールしたい」と、警視庁唯一の代表として恥ずかしくない試合を誓った。

■来年のアジア大会(中国)に出るためにも結果を出す

 松本が“シングルナンバー”を目指すモチベーションは、来年11月のアジア大会(中国)につながっている。前回の2006年ドーハ・アジア大会は、日本選手団の肥大化を抑制するために各競技で出場選手数を制限。レスリングでも男子両スタイルのの96、120kg級は派遣が見送られた。

 84kg級の松本はぎりぎりで派遣が認められたが、それは前回のアジア大会(2002年=韓国)王者で世界でも7位や8位に入っていたグレコローマン84kg級の松本慎吾(現全日本コーチ)の存在があったからこそ。当初の案は、重量級3階級の派遣カットだった。

 それだけに、松本が好結果を残す意味は大きい。世界での公式戦は、2007年アジア選手権(キルギス)以来で、久々の海外ビッグイベントだが、結果にこだわりをもって臨む。「前回同様、逃げることなくガンガン攻めて試合に臨みたい」。大人になった松本真也が3年前の自分超えを目指す(左写真=2度目の世界選手権に燃える松本)

松本真也(まつもと・しんや)=警視庁

 1984年7月16日、京都府生まれ、25歳。京都・網野高〜日大卒。京都・網野中時代に3年連続(1997〜99年)で全国大会優勝。網野高では2000〜02年に全国高校選抜大会2度、インターハイと国体を各3度勝ち、タイトルを総なめにした。高校8冠王は史上初。

 2000・01年はアジア・カデット選手権でも勝った。日大1年の2003年に全日本大学選手権で勝ち、翌2004年は学生二冠王へ。この間、2003年世界ジュニア選手権へも出場。2006年に全日本選抜選手権で優勝し、世界選手権に出場して10位。

 その後、日本一、日本代表から遠ざかる。その間に出場した2007年アジア選手権も10位に終わった。2009年全日本選抜選手権で優勝し、2度目の世界選手権出場を決めた。171cm。

 ◎松本真也の最近の国際大会成績

 《2007年》

 【アジア選手権】10位(11選手出場)
1回戦 ●[0−2(0-1,5-6)]Lee Du-Soo(韓国)


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