【特集】世界選手権へかける(15)…男子フリースタイル55kg級・湯元進一(自衛隊)【2009年9月10日】

(文=保高幸子)



 グラウンドでの多彩な攻撃が魅力の男子フリースタイル55kg級の湯元進一(自衛隊=左写真)。世界選手権は今年が初出場だが、国際大会での優勝経験は多く、最近では今年冬のヤシャ・ドク国際大会(トルコ)で金メダルを獲得している。

 6月の明治乳業杯全日本選抜選手権では、かつて松永共広(ALSOK綜合警備保障=北京五輪で銀メダル獲得)とともに目標にしていた田岡秀規(自衛隊)を決勝で破っての優勝。佐藤満強化委員長(専大教)からも「両スタイルの55kg級は金メダルを期待できる」とお墨付きをもらい、満を持しての出場だ。

■兄・健一の五輪銅メダルに追いつくのは、世界選手権の金メダル!

 双子の兄・健一(現ALSOK綜合警備保障=五輪当時日体大助手)の北京五輪での銅メダル獲得から1年を経た今年、やっと弟・進一の出番がやってきた。「(健一の)五輪銅メダルに追いつくには世界選手権では金メダルしかないです。健一は(負傷から)やっと復帰して、頑張っている。健一が休んでいる間に、こんどは僕が世界で優勝して自分をアピールしたい!」。やるからには金メダル。誰にも負けたくない、と息巻く。

 北京五輪は「健一の活躍を見るだけだったので悔しかったです。健一ばかり注目されて…」と正直な感想をつづる湯元(右写真:勝利の美酒を左手に、兄・健一の銅メダルを祝福する湯元だったが、内心は?=北京五輪)。しかし、そのおかげでオリンピックへの熱い思いもさらに強まり、気持ちは2012年ロンドン五輪へまっしぐらだ。「今年は、オリンピックを最終目標とすると、ひとつ目の目標だった世界選手権です。やっと自分の舞台に立つことができる、それがうれしいです」

 得意はバックを取ってからグランドでポイントを重ねること。流れの中でのグランド技は得意だ。多彩な攻撃力は自他ともに認めるところ。「今は相手を崩す動きの中での組み手を強化しています。相手を動かして、ばてさせる動きですね」。そこに得意のグランド技を組み合わせてたたみかければ、どんな相手もひれ伏すだろう。

■期待されればされるほど、うれしく、励みになる

 精神面の強さも湯元の強みだ。「大学の後半から気持ちが変わってきましたね。自衛隊に入り、さらに気持ちが強くなりました」。以前は負けたらどうしよう、という不安が強く、今考えてみればおかしなプレッシャーに弱かったという。「強くなったきっかけは本を読んだこと。『スポーツ選手よ 強くなるには哲学を持て!』(著・杉浦健)という本です。緊張は誰でもする、ということ。当たり前なんですけど、あらためて実感しました。負ける不安ばかりで技を出せないくらいなら、出して失敗する方がマシです」

 初出場に加えて、試合があるのは大会初日だ。「緊張はしない?」と聞くと、「それ(緊張)よりも、早く試合がしたい気持ちが強いです!」と頼もしい言葉。これまでやってきた自分の力を強く信じている。「早くマットに立って、オレはこれだけやれるんだ!というところを見せたいです。マットに立った瞬間、どんな気持ちになるのか楽しみです」

 今では、期待されればされるほど、うれしく、プレッシャーどころか練習の励みになるのだという。恩師や親からの「金メダルを獲れ!」という言葉も真正面から受け止めている(左写真=世界選手権へ向けて最後の調整に励む湯元)

 一番の仲間でありライバルである健一と2人で世界の頂点をとることが理想だが、「まだ何も結果を出していないのでそんなことを言える立場じゃないです。とにかく今年世界を獲ってからです。」と謙虚な姿勢。今年の大会は最終目標へのスタート地点だ。これから金メダル街道をつき進むための鮮烈なスタートダッシュを見せてくれるだろう。

湯元進一(ゆもと・しんいち)=自衛隊

 1984年12月4日、和歌山県生まれ、24歳。和歌山ジュニア教室出身。和歌山・和歌山工高〜拓大卒。高校時代は2年生の時(2001年)にインターハイと国体で優勝。2002年は全国高校選抜大会2位、国体2位など。

 拓大1年生の2003年に全日本学生選手権2位へ。翌2004年に全日本大学グレコローマン選手権で優勝したが、本来はフリーの選手。2006年は国体で優勝。2007年はダン・コロフ国際大会で勝ち、海外初優勝と力をつけた。

 2007年全日本選手権は3位。北京五輪には手が届かなかったが、同年の全日本選手権で初優勝。2009年2月のヤシャ・ドク国際大会で優勝し、全日本選抜選手権で勝って世界選手権出場を決めた。162cm。

 ◎湯元進一の最近の国際大会成績

 《2007年》

 【ダン・コロフ国際大会】優勝(13選手出場)
1回戦  ○[2−(TF7-0=1:31,TF6-0=1:52)]Naranbaatar Bayaraa(モンゴル)
2回戦  ○[2−0(1-0, 2-1)]Svetoslav Neychev(ブルガリア)
準決勝 ○[フォール、1P1:53(F8-2)]Zhassular Mukhtarbekuly(カザフスタン)
決  勝 ○[2−0(1-0, 6-2)]Labazan Askerbiev(ロシア)

 【CSKAカップ(団体戦)】
予選1回戦 ○[2−0(3-1,4-1)]Souraki Abbas Dabbaghi(イラン)
予選2回戦  BYE
予選3回戦 ●[0−2(0-2,0-4)]Dshamal Otarsultanov(ロシア)
3位決定戦 ●[1−2(0-1,1-0,1-3)]Radoslav Velikov(ブルガリア)

 《2009年》

 【ヤシャ・ドク国際大会】優勝(33選手出場)
1回戦  ○[2−0(2-0,2-1)]Elsan Mirzayen(アゼルバイジャン)
2回戦  ○[2−0(1-0,1-0)]Ceyhan Aliyev(アゼルバイジャン)
3回戦  ○[2−0(3-1、TF7-0)]T. Davaaknuyag(モンゴル)
準決勝 ○[2−0(4-0,4-0)]John Pineda(カナダ)
決  勝 ○[2−1(2-0、TF0-6,1-0)]稲葉泰弘(警視庁)

 【ダン・コロフ国際大会】3位(8選手出場)
1回戦  ○[2−0(5-0,TF8-0=0:47)]Wild Urs(スイス)
2回戦  ○[フォール、1P0:53(F4-0)] Chergui Ammar(アルジェリア)
3回戦  ●[1−2(0-2,2-1,1-3)]稲葉泰弘(警視庁)
敗復戦 ○[フォール、2P0:58(5-1,F5-0)]Krum Chuchurov(ブルガリア)
三決戦  ○[2−1(1-0=2:03,0-2=2:05,1-0)]Naranbaata Bayara(モンゴル)


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