【特集】世界選手権へかける(19)…女子63kg級・西牧未央(中京女大)【2009年9月15日】

(文=樋口郁夫)



 2002年世界選手権から昨年の北京五輪まで、7年連続で伊調馨が世界の最高峰に輝いた女子63kg級。今年の世界選手権は、今年に入ってアジア選手権(タイ)、オーストリア・オープン、ゴールデンGP決勝大会(アゼルバイジャン)と、国際大会を3連覇している西牧未央(中京女大=左写真)が出場する。

 西牧は北京五輪の2ヶ月後に東京で行われた世界女子選手権で優勝しているので、今回はデフェンディング・チャンピオンとしての出場となる。だが、北京五輪の1位から5位までの選手が出場していない大会での優勝で、世界一を名乗るわけにはいかない。「(初出場の)去年の大会前と同じ気持ちです」と話し、他国の選手の挑戦を受けるという気持ちはない。初の世界チャンピオンを目指す時と同じチャレンジャーとしての気持ちで“挑戦”する。

■北京五輪銀メダルのアレナ・カルタホバ(ロシア)が出場へ

 今年の大会には、五輪2位のアレナ・カルタホバ(ロシア)がエントリーしている。4月には肩の手術に踏み切っており、「今年は休養」と伝えられたが、治りが早かったようだ。北京五輪時の強さがあるかどうか分からないが、ロシアの代表として出場してくるからには、中途半端な状態で参加してくるとは思えない。やはり優勝候補の一番手と考えられるだろう(右写真=北京五輪決勝で伊調馨と闘うカルタホバ)

 西牧は「受ける」ではなく、「挑む」という気持ちでカルタホバの参戦を受け止めている。「自分の力を試すのが楽しみ。負けたらどうしよう、といった気持ちは全くありません」。自分に世界チャンピオンを名乗る実力があったのかどうかを試す最高の相手と言ってもいいだろう。

 現在までに分かっているエントリー選手の中で、ライバルと目されるのはカルタホバくらいだ。2007年59kg級世界チャンピオンで、昨年63kg級世界3位のオードレイ・プリエト・ボカシビリ(フランス)は、今年の欧州選手権は5位。この階級で通用するにはもう少し時間がかかりそう。

 北京五輪8位で今年の欧州チャンピオンのモニカ・エバ・ミチャリク(ポーランド)は、西牧が7月のゴールデンGP決勝大会で快勝した相手。急成長を見せていた北京五輪3位のエレナ・シャリギナ(カザフスタン)は67kg級にアップしたもよう。

 これまで1勝2敗と分の悪い中国が、国内のビックイベントとの関係でベストメンバーが出てこないというのは、弱気になっていたという意味ではなく、「気持ち的には楽」と言う。マークする選手が限られているので、その面では闘いやすい世界選手権になりそうで、金メダルを射程距離におさめているのは間違いない。

■12月に伊調馨と“雌雄決する”ためには、世界選手権での優勝が必要

 西牧がこれまで国際大会で負けたのは、3度のワールドカップ(団体戦)での4試合だけ。今年も3月に中国で行われたワールドカップで、昨年の世界選手権でフォール勝ちした孟麗麗(中国)に第3ピリオドのラスト3秒に逆転負けしている。個人戦に限るなら、国際大会デビューとなる2003年のショーブ女子国際大会(フランス)以来、「11大会連続優勝、44戦無敗」を継続中だ(ワールドカップは8勝4敗)。

 団体戦の63kg級はチームの勝敗の分かれ目ともなるケースが多く、その独特のムードにやられるのかもしれない。「プレッシャーとは違います」と強調し、「協調性がないのかもしれませんね」と笑うが、負ける原因は圧倒的な強さが足りないからだと思っている。「競り合いになった時に勝利につなげられない。競り合う展開になった場合、少しの差であってでもいいから勝てるようにしないと」と話し、終了間際の粘りを身につけるのが現在の課題といったところ(左写真=全日本合宿で練習する西牧)

 最終の目標は2012年ロンドン五輪の金メダルであることは言うまでもないが、それには伊調馨の壁を破らなければならない。早ければ12月の全日本選手権で対決が実現することになろうが、「世界選手権で優勝を逃したら、勝てる可能性がなくなるような気がします」ときっぱり。

 世界チャンピオンと五輪チャンピオンの対決だからこそ“雌雄決する”という闘いになる。伊調馨も吉田沙保里も、国内でそうした闘いを経験し、勝ち抜いてきたからこそ磐石の強さが身について五輪連覇を達成した。五輪チャンピオンを目指す西牧なればこそ、その試練の機会を得てほしい。それには、今年の世界選手権で負けるわけにはいかない。

西牧未央(にしまき・みお)=中京女大

 1987年7月15日、大阪府生まれ。22歳。大阪・吹田市民教室出身。愛知・至学館高卒。キッズ時代から全国に名をとどろかせ、全国少年選手権7年連続優勝。中学時代は2000〜02年に3年連続で全国大会二冠(全国中学生選手権・全国女子中学生選手権)を制した。

 愛知・至学館高に進んでからは、2004年ジャパンクイーンズカップ59kg級で優勝。2005年はアジア・ジュニア選手権と世界ジュニア選手権の63kg級で優勝した。2006年も63kg級の世界学生選手権、ゴールデンGP決勝大会、世界ジュニア選手権で優勝。階級を落として59kg級の全日本チャンピオンに輝いたが、2007年世界選手権出場は逃した。

 2007年全日本選手権は67kg級で優勝。2008年に世界選手権初出場で初優勝を飾り、63kg級で初の全日本チャンピオンに輝いた。2009年はアジア選手権とゴールデンGP決勝大会で優勝。160cm。

 ◎西牧未央の最近の国際大会成績

 《2007年》

 【ワールドカップ(団体戦)】個人順位2位
予選1回戦 ○[2−0(3-0,5-2)]Olga Khilko (ベラルーシ)
予選2回戦 ○[2−0(6-0,2-0)]Stephanie Gross (ドイツ)
決    勝 ●[1−2(1-0,0-2,0-1)]Jing Ruixue (中国)

 《2008年》

 【ワールドカップ(団体戦)】=個人戦順位不明
予選1回戦  ○[2−0(1-0,4-0)]Yuliya Ostapchuk (ウクライナ)
予選2回戦   BYE
予選3回戦  ●[0−2(2-2L,1-2)]Sara Mcman (米国)
三位決定戦 ●[0−2(0-3,0-1=2:05]Yelena Shalygina (カザフスタン)

 【世界選手権】優勝(20選手出場)
1回戦   BYE
2回戦  ○[2−0(4-0,4-0)]Grabowska Paulina(ポーランド)
3回戦  ○[フォール、1P1:56(6-2)]Meng Lili(孟麗麗=中国)
準決勝 ○[2−0(3-0,1-0)]Zamula Olesia(アゼルバイジャン)
決  勝 ○[2−0(5-0,4-0)]Volosova Lubov(ロシア)

 《2009年》

 【ワールドカップ(団体戦)】個人順位4位
予選1回戦  ●[1−2(1-0,0-1,1-1L)]Meng Lili(孟麗麗)
予選2回戦  ○[2−0(4-0,TF7-0=1:32)]Volha Hlebik(ベラルーシ)
予選3回戦  ○[2−0(TF8-2=1:52,2-0)]Elena Pirozhkov(米国)
三位決定戦 ○[2−1(2-0,1-2,4-0)]Alla Cherkasova(ウクライナ)

 【アジア選手権】優勝(10選手出場)
1回戦   BYE
2回戦  ○[2−0(1-0,1-0)]Suman Kundu(インド)
準決勝 ○[2−0(9-4,3-0)]Thi quyen Luong(ベトナム)
決  勝 ○[フォール、2P(2-0,F7-0)]Wilaiwan Thongkam(タイ)

 【オーストリア・オープン】優勝(11選手出場)
1回戦  ○[フォール、2P=0:57(2-0,F5-0)]Paulina GRABOWSKA(ポーランド)
2回戦  ○[2−0(3-0,TF6-0=0:27)]Fabienne WITTENWILER(スイス)
準決勝 ○[2−0(TF7-0=0:54,TF10-2=1:34)]Tamara WITTENWILER(スイス)
決  勝 ○[2−0(5-0,5-0)]Justine BOUCHARD(カナダ)

 【ゴールデンGP決勝大会】優勝(10選手出場)
1回戦   BYE
2回戦  ○[2−0(4-0,4-0)]Paulina Grabowska(ポーランド)
準決勝 ○[2−0(1-0,2-0)]Monika Michalik(ポーランド)
決  勝 ○[2−0(TF7-0=1:43,3-0)]Lyubov Volossova(ロシア)


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