全日本学生選手権（インカレ）のフリースタイル60kg級を制したのは、国士舘大の小田裕之（左写真）だった。キッズ時代から数々のタイトルを獲得し、スーパールーキーとして国士舘大に入学。３カ月後にはカナダカップに出場して３位に入賞。海外でも成績を残した逸材だ。1年生のインカレでいきなり３位入賞を果たし、秋の全日本大学選手権では２位。湯元健一（ＡＬＳOＫ綜合警備保障）が取ってきた五輪出場枠をかけての闘いとなった昨年の全日本選抜選手権では、２回戦で湯元を破って決勝に進出。高塚紀行（日大コーチ）にフルピリオドの末に敗れて準優勝に終わったが、この大会で「小田はマジで強い」ということを全国に知らしめた。
■全日本選抜選手権は前田翔吾を追い詰めながら逆転負け
全日本選抜２位の肩書を引っさげて、昨年は学生タイトルの戴冠を狙ったが、インカレは試合中のけがで敗退。全日本大学選手権では、内村勇太（拓大）相手に、リードしていたにも関わらず不用意な攻めを返されてフォール負け。それまでの勢いがうそのようにタイトル運から見放されてしまった。
気を取り直した今シーズンも、全日本選抜選手権の２回戦で、前田翔吾（日体大）に４−１とリードしながら、終盤に逆転負けを喫した。負けた試合は、小田自身のミスによるものが多かった。「集中力が欠けてしまうことがあった。前田選手との時も、（大量のリードがあって）残りはなんとかなると思った」と油断があったことを認めている。
もともと、審判の判定など気に入らないことがあると「カーッとなってしまうことがある」ため、大会では集中力を高めることを意識した。 「昨年の大学選手権で逆転負けした時は、和田コーチにかなり怒られました」（小田）と、和田コーチも小田の精神面にはずいぶんと苦言を呈してきた。だが、今大会は「とても落ち着いていて、慌てることなく集中していた。それが見ていてすぐ分かったので、あれこれ言わなかった」と和田コーチ。
「大会前の長野・菅平で張った合宿では、かなり追い込んでいい練習ができた」と小田は心身ともに充実して本番を迎えたようだ。（右写真＝準決勝で豪快なタックルを見せた小田）。
■田中幸太郎のローシングを読み切って快勝！
その集中力をさらに高めたのが、決勝の相手だった。予想していた昨年２位の松本桂（早大）ではなく、１年生の田中幸太郎（早大）が上あがってきた。「１年生になんか負けていられない」。小田もルーキー時代に数々の大物食いをやって見せたが、そんな小田も、今年は３年生と上級生の立場だ。
田中が得意とするローシングルのタックルの読みも完ぺきで、第１ピリオド、ローシングルをあっさりとかわすと、がっちりと捕まえて場外へ追いやった。第２ピリオドは先に失点を許すも、すぐに追いついてローリングで追加点。最後はニアフォールの体勢（左写真）に持っていって７−２と大勝。初タイトルを手に入れた。「やっと優勝できた」とポーカーフェイスの顔から少し笑顔をこぼした小田。すぐに「２年生で優勝できると思っていたのに」と自らをいましめ、ここからは白星街道をまい進することを誓った。今年の最終目標は12月の全日本選手権でのタイトルだ。「守りに入ると負けてしまう。今後はポイントが開いたとしても、２分間攻め続けるレスリングをしたい」と抱負。
一皮むけた小田。かつての強豪、国士舘大から生まれたフリースタイル９年ぶりの学生王者が、日本の伝統階級、フリースタイル60kg級をさらに熱くする！