【特集】悔しい銅メダル! しかし世界一への強い気持ちが湧いた…女子51kg級・甲斐友梨(アイシン・エイダブリュ)【2009年9月24日】

(文=樋口郁夫、撮影=矢吹建夫)



 3位決定戦で中国の選手をがっちり押さえ込んだ51kg級の甲斐友梨(アイシン・エイダブリュ)。フォールの体勢に入ってから、レフェリーの手がマットをたたくまで約40秒と時間がかかったが、強豪国の選手を相手に世界選手権初出場で銅メダルを手にした。

 女子のレベルが上がった現在、初出場でメダル獲得は快挙と言える成績だろう。まして準決勝の試合で頭を切り、1針縫うハンディを背負いながら向かった銅メダル・マッチ。喜ぶに値する勝利だった。

 だが甲斐は、本部席に座っていた日本協会の福田富昭会長に一礼したあと、応援席に軽く手を振って喜びを表しただけ(右写真)。コーチに抱きつくわけでもなければ、号泣するわけでもない。かなり淡々としてウォーミングアップ場に消えた。

 うれしくないわけはない。しかし「(坂本)日登美先輩がずっと金メダルを取ってきた階級。どうしても金メダルを取るという思いでやってきましたから、悔しいです」という気持ちが、派手なアクションを押さえていた。負けた相手は、今年6月のオーストリア・オープンと7月のゴールデンGP決勝大会(アゼルバイジャン)で2連勝していたソフィア・マットソン(スウェーデン)だということも、悔しさを倍増させる要因だった。

■今年2度の対戦で、手の内を研究されてしまった!

 マットソンとの一戦は攻撃ができなかった。今年の2連勝の内容は、最初が2−0(1-0,1-1)、2戦目が2−0(1-1,2-1)。ともに大勝という試合ではなかったが、それでもきちんとテークダウンを取ってのポイントを獲得しての勝利だった。

 「研究されていました。今まで取れたタックルが、まったく入らせてもらえなかった」(左写真)。それは2回戦で闘ったエメセ・サボー(ハンガリー)にも言えたこと。この選手とも7月のゴールデンGP決勝大会で闘い、2−0(2-0,2-0)で勝っていたが、今回は第1ピリオドを取られ、辛うじて逆転する苦戦。ちょっと目立つと徹底的に研究される世界の厳しさを痛感した大会でもあった。

 また、世界選手権という“器”の大きさも知った。前日の計量の時までは、「乗り乗り気分でいた」そうだが、この日、第1試合のマットに立った時には「緊張で手足が震えていた」という。これまでワールドカップやアジア選手権、ゴールデンGP決勝大会と、かなりのビッグイベントに出場した経験があるが、それらとはケタ違いの重圧。日本代表としての責任感も、その緊張を強くしたという。

 だが、こうした壁を乗り越えての銅メダル獲得は、甲斐を一回りもふた回りも大きくすることは間違いない。「勇気を出して、自分から攻めなければならないことを知りました。伸びしろも見つけました。パワーアップも必要」と、銅メダルのほかにも日本に持って帰れるものは多い。

■チャンピオンベルトを見て、悔しさが倍増!

 何よりも、世界一への強い気持ちが湧いてきた。表彰式の前に、優勝してはしゃいでいるマットソンに「ネクスト・イヤー、アイ、レベンジ」と声をかけたら、「フフン」と鼻であしらわれたそうで、その悔しさは来年へ向けてのエネルギーだ。

 表彰式では、チャンピオンに巻かれるベルトを、「このヤロー、という気持ちで見ていた」とのこと。金メダルを取れなかったという現実が、金メダルへの思いを2倍にも、3倍にもしてくれた。

 喜びは少なかった。だが、来年、本当の喜びを勝ち取るための価値ある銅メダルだった(右写真3位決定戦で勝った甲斐)。もっとも、来年迎える前に日本一になるという課題が残っている。今回の出場は、チャンピオンの堀内優選手が肩の手術に踏み切ったための繰り上げ出場だ。日本一にならなければ、本当の意味で世界一への道は考えられない。

 「明日から、どうやって日本一になるかを考えます」。順番は逆になってしまったが、世界銅メダリスト、甲斐友梨はの挑戦は止まることなく続く。


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