【特集】激戦階級に新星誕生! 全日本初制覇なるか…男子グレコローマン60kg級・城戸義貴(自衛隊)【2009年11月8日】

(文=樋口郁夫)



 笹本睦(ALSOK綜合警備保障)の“独裁”が続いていた男子グレコローマン60kg級。笹本は2012年ロンドン五輪へ向けてこの階級で闘いを続けるが、新顔の台頭により、簡単には勝たせてもらえない状況になっている。

 昨年の全日本選手権は日体大4年生の佐藤亮太(現カンサイ)が優勝(笹本は66kg級に出場)。今年の世界選手権には23歳の松本隆太郎(群馬ヤクルト販売)が笹本のが城を破って出場した。全日本2位の谷岡泰幸(自衛隊)も3月のゴールデンGP予選大会のハンガリーカップで銅メダルを獲得し、国際舞台で成績を残した。

 こうした激しい闘いに割り込みそうなのが、今年7月の全日本社会人選手権と9月の新潟国体で優勝した城戸義貴(きど・よしたか=自衛隊、左写真)。熊本・北稜高時代は国体3位が最高で、徳山大時代の2005年に全日本大学グレコローマン選手権2位、全日本選手権3位などの成績があるが、日本代表争いでは名前が出てこなかった存在。ことし、やっと2つの全国大会を制し、全日本チャンピオンを狙える位置にたどりついた24歳だ。

 「目標はオリンピック。そのためにも、今度の全日本選手権の目標は優勝」ときっぱり。徳山大の先輩の藤村義(自衛隊)が無名の存在から今年の世界選手権代表になっており、それに続くべく、腕を撫(ぶ)している。

■新潟国体では全日本王者と学生王者に圧勝!

 新潟国体では2回戦で全日本チャンピオンの佐藤を2−0で撃破した。第1・2リオドともテクニカルフォールという内容(6-0=0:40,7-1=1:19)。続く3回戦では学生王者の横山巧(日体大)をも2−0(6-0=1:51,6-0=1:16)で破った。この2試合の内容からしても、優勝は決してフロックではないことが分かる。いま、この階級で最も勢いをもって成長しているのが城戸だ(右写真=全日本合宿で元木康年コーチと練習する城戸)

 「今年の後半は運が乗っていますね。大きな実力アップというのは感じませんが、技の細かな部分ができるようになっているとは感じます」。グラウンドの防御が弱いと感じている分、1分30秒のスタンド戦で何が何でもポイントを取る気持ちが強く、これがいい方向へ向いているようだ。今月14〜15日には、ニューヨークで行われるNYACホリデー国際オープン大会に出場する予定で、海外でさらにワンランク上の実力アップを狙う。

 決して目立つ存在ではなかったが、城戸が最初に光るものをアピールしたのが、昨年の全日本選手権のことだった。2回戦でポスト笹本の一番手と目されていた松本隆太郎を撃破し、戦前の予想を覆す番狂わせを演じた。「運ですよ。グラウンドの順番が違っていたら(注・当時のルール)、ボクが負けていたでしょう」と謙そんしながら、その松本が今年の世界選手権の代表となり、言いようのない悔しさを感じたというから、この言葉を額面通りには受け取ることはできまい。

 「オレの方が強い」という気持ちがあればこその悔しさ。「今年の全日本選手権で闘うことがあると思います。負けたくない」ときっぱり言う。

 また、今年6月の全日本選抜選手権では初戦(2回戦)で笹本を追い詰めた。第1ピリオドこそ2−0で取られたものの、第2ピリオドは4−0。第3ピリオド、ラスト30秒のグラウンドを守り切れば勝てた試合だったが、笹本必殺のガッツレンチ(左写真)を防げずに無念の黒星。しかし、笹本から4点を取って1ピリオドを奪った自信は大きく、この善戦がその後の飛躍につながったのは言うまでもない。

■ライバルに塩? 笹本がていねいに技術指導をしてくれた!

 自分で感じる細かな技術のアップとは、組み合った時の崩す幅が広がったり、技を仕掛ける時にタイミングをうまくずらせるようになり、以前より技を決めやすくなってきたこと。「このあたりが結果を出せた要因かな?」と言う。

 その技術的なアドバイスをしてくれたのが、目標でもある笹本だという。全日本合宿でていねいに指導してくれ、その成果が「(国体での)佐藤戦にも出すことができました」と振り返る。選手は、ライバルとなる可能性のある選手には技術指導などしないものだが、「ボクがあんまり下手くそなので、見ていられなかったのだと思います」と笑う。

 勝負の世界では、指導してくれた先輩を破ることを「恩を返す」と言い、最高の“礼儀”とされている。笹本の思いやりに対し、最高の礼儀をもって恩返しをしなければなるまい。

■アレクサンダー・カレリン(ロシア)との手合わせで世界王者の強さを実感

 今年1月に“史上最強のレスラー”アレクサンダー・カレリン(ロシア)が来日し、臨時のレスリング教室を開いた時、最初にカレリンの練習相手に指名されたのが城戸だった。カレリンが両ひざをマットに着き、城戸が普通に攻めるという練習で、数十秒程度の攻防だったが、これも大きな刺激材料になっている(右写真=カレリンにつかまえられ、テークダウンされた城戸)

 「何もできなかった。岩を相手にしているような感じ。現役を引退して10年近くたっていて、この強さ。現役の世界チャンピオンというのは、どんな強いのだろうと思った」と話し、毎日を必死になって練習していかなければならない気持ちを強くしたという。

 “独裁政権”が崩れて“戦国時代”となった男子グレコローマン60kg級。一歩抜け出るのはだれか? 昨年はまだ隠れた存在だった城戸が、来年はトップを走っている可能性は十分にある。


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