【特集】目標は世界銅メダリスト、そして2012年ロンドン五輪…男子フリースタイル66kg級・石田智嗣(早大)【2009年11月12日】

(文=樋口郁夫)



 9月の世界選手権(デンマーク)で初出場にして銅メダルを取った男子フリースタイル66kg級の米満達弘(自衛隊)。2012年ロンドン五輪へ向けて、日本レスリング界に力強い戦力が誕生したが、その座は安閑とはしていらない。“新しい芽”が着々と育っており、米満が3年後まで日本代表の地位を守れる保障はどこにもない。

 “新しい芽”の一番手は、8月の世界ジュニア選手権(トルコ)で日本選手最高の5位入賞を果たした石田智嗣(早大2年)。9月の全日本学生選手権を制したあと、新潟国体では、国内における米満の最大のライバルと考えられていた小島豪臣(K−POWERS=2006年アジア大会銀メダル)を2−0で撃破。

 決勝でベテランの金渕清文に敗れて2位に終わったものの、小島を破ったことは間違いなく殊勲の白星。一気に打倒米満の一番手に躍り出た。「小島さんにはたまたま勝ったようなものですけど、自信にはなりました。全日本選手権の目標は優勝」ときっぱり。国内最大の目標が世界3位になったことで、「自分もやれる、という自信になります」と言う。

■2007年高校四冠王者が順調に伸びて、2年生で学生王者へ

 三重・鳥羽東中時代は2年連続全国2位だったが、京都・立命館宇治高時代の2007年に高校四冠(全国高校選抜大会、インターハイ、全国高校グレコローマン選手権、国体)王者へ。大学2年生にして世界ジュニア選手権5位、全日本学生王者へと順調に育った(右写真=今年4月のJOC杯ジュニアオリンピックではJOC杯を受賞)。小島を破った実績をもってして、全日本王者を狙える位置にまで来たと考えてもいいだろう。

 しかし、石田には「狙える位置まできた」で満足する気持ちは毛頭ない。「自分の目標にしている先輩は、2年生で日本一になっています。全日本選手権で優勝しなければ…。学生王者では満足できません」ときっぱり。高校の先輩の鈴木崇之(立命館大〜現警視庁)や早大の先輩の佐藤吏(現ALSOK綜合警備保障)の名を挙げ、今年は全日本王者が“ノルマ”と定めている。

 実際には、鈴木は2年生で66kg級の全日本2位、佐藤が66kg級で全日本王者に輝いたのは3年生の時だが、ロンドン五輪出場を実現するためにも、学生王者では満足しないという気持ちが十分に伝わってくる。

 一方で、「実力的には、まだ小島さんに勝てるだけのものはないと思います」と話し、思い上がらないよう自分自身に言い聞かせてもいる。新潟国体での小島との試合は、第1・2ピリオドとも2分間を両者得点なしに終わり、ボールピックアップで勝った方が取った。第3ピリオドもラスト10秒まで0−0。

 最後に石田が片足タックルから3点を取り、勝利をさらったが、「試合の流れからして、負けていてもおかしくない試合だった」と振り返る。全日本合宿などでのスパーリングでもしのぐことはできず、まだ追い越したとは思っていない。「実力を底上げしなければなりません」と言う。

■「いい試合をしても、勝たなければ意味はありません」ときっぱり

 何よりも、米満には早大進学後に4連敗中。米満を破らずして全日本王者にたどりつくことは考えられないので、もっと実力アップをしなければならないと思うのは当然だろう。米満との一番最近の試合は今年6月に全日本選抜選手権で、1−2(0-1=2:05,3-2,0-1)の惜敗(左写真=青が石田)。この結果だけからすれば、石田の実力は米満のそれにかなり接近していると考えられる。だが石田は「いい試合をしても、勝たなければ意味がありません」と言い切った。善戦で満足していては、「手が届かない相手」だとも。

 上を目指す意識はかなり高く、今年の全日本選手権はあくまでも優勝を狙っての参戦。もちろん、その先には世界での闘いがあり、ロンドン五輪出場がある。今年8月には世界ジュニア選手権に出場し、同世代の世界トップ級の闘いも経験した。

 米国やカザフスタンの強豪国の選手には勝ったものの、4回戦でロシア選手に1−2(1-0,0-2,0-2)で黒星。このロシア選手は決勝でポカをして2位に終わったが、「実力的には一番だと思う」(石田)という強豪。とにかく前に出てくる圧力がすごかったという。

 その突進をしのぐうちにスタミナをロスしてしまい、後半の反撃ができなかったという。「圧倒しなくとも、押し負けないだけの体力が必要です」と、世界で勝つためには技術のみならず体力も足りない現実に直面したが、これらの経験すべてが成長のための肥やしになっていくのは間違いないだろう。

■数年前の米満に劣らない意識の高さ!

 「ロンドン・オリンピックに出て、優勝したい」。石田が特に力をこめたのが、この言葉だ。そのためには、通常体重が68kgなので「60kg級に落として狙うこともある。オリンピックで勝てる階級で、勝つための練習をする」と言う(右写真=日本協会・佐藤満強化委員長の見守る前で湯元健一と練習する石田)

 米満も拓大2年の頃には「オリンピックで2連覇する」と口にし、世界で勝つことへの気持ちは強かった。石田の意識もそれに負けないほど高い。その気持ちが、全日本選手権でどう爆発するか。その前に、今月14日からの全日本大学選手権(大阪・堺市金岡公園体育館)で学生二冠王を狙う。そして最高の昇り調子で世界のメダリストへ挑む−。


《iモード=前ページへ戻る》
《トップページへ戻る》
《ニュース一覧へ戻る》
《ニュース一覧(2008年以前)へ戻る》