【特集】フリー55kg級の長尾武沙士(近大ク)が初優勝! 弟・明来士とともに天皇杯出場へ【2009年11月22日】

(文=増渕由気子)



 第26回全国社会人オープンレスリング選手権大会が11月21日、東京・スポーツ会館で行われた。今大会の優勝者には、12月の天皇杯全日本選手権への出場資格が与えられる。男子フリースタイル55s級で優勝した長尾武沙士(むさし=近大クラブ)も、悲願の優勝を成し遂げ、全日本選手権へのチケットを手に入れた(右写真=優勝後、両親、弟とともに記念撮影の長尾)

 キッズ・レスリング(大阪・吹田市民教室)あがりの長尾は、2006年西日本学生王者の実績を持ち、学生時代から全日本選手権の出場経験は何度もある。しかし、昨年の全日本選手権では初戦敗退。今年の全日本選抜選手権のみならず全日本選手権の出場資格を失っていたため、この大会にエントリーしてきた。

■甘く考えていた全国社会人オープン選手権

 当初、長尾に危機感はまったくなかった。「強い選手も人数も少ないだろうって思っていました。なめてましたね」。組み合わせ表を見た瞬間、血の気が引いた。出場選手数も、そのレベルも想像していたものと格段に違ったからだ。さらに、初戦は学生時代に1度も勝てなかった相手、川裕毅(日本文理大〜現川内自衛隊)という組み合わせを見て、天を仰いだ。「絶対に勝てる保障はない…」。

 現在、大学を卒業して2年目。教員を目指して勉強中のかたわら大学のコーチ職に就いており、「4つ下の弟(明来士=あらし)の面倒を見ると決めたんです」と、弟を含めた後輩たちの指導に熱を傾けている。先日の全日本大学選手権では弟が66s級で3位に入賞。兄より先に全日本選手権への出場資格を得た。

 兄弟そろって天皇杯出場という最高の年末を送るために、長尾の家族も総出で大阪から駆けつけた。それを力に、不安だった1回戦は2−0で、2ピリオドはテクニカルフォール勝ち。その後、準決勝まではピリオドを落とさず、快勝続きで勝ち上がった。

 全日本選手権まであと1勝となった決勝戦。相手は元自衛隊の渡辺大(千葉・関宿高教)だった。第1ピリオド、先制したのは長尾だったが、残り10秒からテークダウンを奪われ(左写真=青が長尾)、ガッツレンチを許して1−2。体を入れ替えて渡辺に乗り、ニアフォールで3−2と再逆転するものの、渡辺サイドがチャレンジ(ビデオチェック要求)を行使。そのチャレンジが認められ1−2という判定に戻ってしまった。

■学生指導で気づいた自身の弱点を克服

 だが、第1ピリオドを失ったことは、まったく気にしなかったという。「元々、カーッとなるタイプだったんです。学生時代はよく審判に文句を言っていました。現在指導者の立場にいまして、学生の指導方法に関して助言をいただいたんです。『学生が1ピリオドくらい落としてもいいじゃない。最後に勝てばいい』って。自分にも当てはまるなと思ったんですよね」。

 完ぺき主義者の長尾は、納得のいかない判定などをされると試合を投げ出すくせがあったが、これをきっかけに自身のスタイルも見直した。学生を指導することで自身も客観的に見れるようになったようだ。

 勝負の第3ピリオドは、終盤に長尾が渡辺をがぶりにいった。「自分は昔、タックルができなくて、がぶりしかできなかったんです」。タックルができない長尾は、周囲にバカにされることもあったが、そのスタイルを「すごくいい」と言ってくれたのは、吹田市民教室の押立吉男・前代表(故人)だった。その言葉を信じて、ひたすらがぶり返しを練習した。学生時代にカナダへ遠征したときは、地元のチャンピオンから、がぶりからのスープレックスをマンツーマンで学んで身につけ、一番の得意技にまで磨き上げた。

 自分の得意な体勢に持ち込んだ長尾は、がぶった態勢から残り15秒で渡辺を勢いよく投げ、3点を奪取(右写真)。三つ子の魂百まで―。押立代表が伸ばしてくれたがぶり返しで勝負を決めた。

 これで、12月23日には兄弟そろって全日本選手権に出陣する。長尾にはぜひ対戦したい選手がいるそうだ。「あこがれの湯元進一先輩(今年の世界選手権代表)と対戦したいです」。学生時代、何度も対戦する可能性はあったが、いつも湯元と当たる前に長尾が負けてしまっていたそうだ。

 湯元も兄・健一(60kg級=ALSOK綜合警備保障)とともに兄弟選手で一気にブレークした。長尾武沙士・明来士の“兄弟そろっての全日本選手権デビュー”はいかに?


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