【特集】目指すは2016年リオデジャネイロ五輪! 今年スタートの前川製作所が燃える【2009年11月25日】

(文・撮影=樋口郁夫)



 景気の冷え込みを反映し、どの競技も今ひとつ盛り上がらない企業スポーツ。しかし、レスリング界に元気のいい企業が新規参入してきた。産業用冷凍機及び各種ガスコンプレッサーの製造・販売などを行っている前川製作所。7月の全日本社会人選手権は3位1人に終わったが、全国社会人オープン選手権で2階級を制し、3位1人と活躍。無念の初戦敗退に終わった中井伸武監督兼選手は、チームの目標を問われ、「目指せ、リオデジャネイロ(2016年五輪開催地)ですね」と張り切っている(右写真=金2・銅1の前川製作所のチーム)

■拓大レスリング部OBが5人そろい、チームを立ち上げ

 前川製作所は大正13年創業。氷冷蔵庫の家庭への普及とともに発展し、現在では食品分野のほか、自動車関連、ケミカル製造、道路・歩道の融雪、ビル空調、レジャー施設など多くの業種に製品を展開している。1998年長野五輪のスケートリンクの製氷は前川製作所の仕事。地球温暖化防止ビジネスにも積極的に取り組み、時代のニーズに合った成長企業で、国内に65の事業所・研究所・支店を持つほか、世界65都市に事業所がある世界的企業だ。

 これまでレスリング界とは無縁だった。しかし拓大で活躍し、2003年にグレコローマン66kg級で学生二冠王に輝いた中井伸武さん(左写真)が入社したことが、レスリング・チームへの発足につながった。中井さんのつてで、その後も拓大レスリング部卒業生の入社が続き、レスリングOBが5人へ。

 中井さんや後輩の勤勉さ、礼儀正しさといったものが会社から評価されたのだろう、昨年、会社から「これだけそろったのだから、(レスリング部を)やってみたらどうだ」との話があった。守谷工場(茨城県守谷市)に道場をつくってもらい、マットは日本協会の尽力で手配できた。予算をつけてもらって今年からスタート。

 レスリングを仕事とするいわゆる “プロ選手”ではない。「会社の仕事がメーン。練習は仕事が終わったあとにやります」(中井監督)という完全なアマチュア・チーム。全員練習は水曜日と土曜日の週2日。拓大OB5人のうち4人は守谷工場の社員だが、1人が東京本社勤務なので、それも厳しい時もある。

 ただ「大会が近くなると、周囲の人が何かと配慮してくれます」とのことで、会社・同僚のチームへの期待は大きい。そんな期待にこたえようと、土曜日は時に母校の拓大の練習に出かけることもあるそうで、「仕事をやりながらでも、上を目指して頑張ります」と燃えている。

 チャンピオン・スポーツとしてだけで取り組むつもりもない。初心者も2人入部し、全国社会人オープン選手権では初段の部に出場した。道場があるのだから、もう少し基盤が固まったらキッズ教室もスタートしたい意向。「そうしたことでレスリングの認知度が高まり、盛り上がればいいですね」と、普及活動にも力を入れる意向だ。

■2006年大学二冠王者の闘志が再点火!

 今回優勝した1人はフリースタイル74kg級の桜井浩二(右写真:決勝で闘う桜井=青)。2006年に全日本大学選手権と全日本大学グレコローマン選手権を制した強豪で、卒業によってレスリングを離れ実社会に活路を求めた。しかし、「悔いがあったわけではないですけど、多少は(引退が)心残りの気持ちがあったのかもしれませんね。その時は燃え尽きたと思ったのですが…」と照れ笑いを浮かべる。

 OBが集まったのを機にマットに戻ってきた。昨年の大分国体で久しぶりに実戦のマットに上がり、この時は3回戦で高橋龍太(自衛隊)に黒星。今年の社会人選手権も2勝したあと高橋に敗れメダルに手が届かなかったが、復帰3戦目にして優勝を経験し、全日本選手権への出場権を手にした。

 優勝というのは選手にとって何よりもの“刺激剤”になる。仕事優先下での活動であり、少人数での練習なので拓大時代のハードさとは比べられないが、「行けるところまで行ってみたい」と、闘争心は間違いなく再点火。「全日本チャンピオンを目指す?」という問いに、「やれるなら」ときっぱり。「まだ体が昔みたいに動かず、試合中に息が上がってしまうけど、これからしっかり練習して」と、上を目指す気持ちは十分だ。

 もう1人の優勝選手、フリースタイル120kg級のアントニー・ブライアン・ベネロ・カサノバ(左写真=三者リーグ3回戦で戦うカサノバ)は、2006年に全日本学生選手権3位の実績を持つ選手。ペルー国籍であるため、優勝しても全日本選手権へは出場できないが、日本への帰化を予定しており、いずれ全日本選手権で雄姿が見られる可能性がある。来年にも、前川製作所の選手が全日本選手権で2人、3人と活躍するかもしれない。

 中井監督は、仕事をしっかりこなしながらレスリングをやりたい人なら、拓大OBにこだわって選手を集めるつもりはないというが、「拓大で教えてもらったスピリットを忘れずにチームをつくりたい」と強調。母校で身につけた粘りと礼儀正しさを前面に押し出し、チームづくりを進める腹積もりだ。目指す方向はリオデジャネイロ! 希望に満ちた航海が始まった。


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