【特集】西日本学生界の挑戦! 指導者がそろった今こそ飛躍のチャンス【2009年12月9日】

(文・撮影=樋口郁夫)



 東高西低と言われ続けてきた学生レスリング界。最近では、2006年の全日本学生選手権フリースタイル96kg級決勝で東誠次(立命館大)−坂本憲蔵(日本文理大)という史上初めて西日本の大学選手同士の決勝戦が実現し、昨年の全日本大学グレコローマン選手権では徳山大が拓大を押さえて3位に食い込むなど、明るい材料がある一方、今年の学生の3大大会(全日本学生選手権、全日本大学選手権、全日本大学グレコローマン選手権)では、西日本から決勝に残った選手はなく、3位が4人(女子を除く)と、依然として格差が存在している。

 もちろん、それを打破するべく努力が続けられている。昨年から今年にかけ、福岡大に五輪2度出場の池松和彦コーチ(日体大卒)、徳山大に現役の世界選手権代表の磯川孝生コーチ(拓大卒)が加わり、指導者の層が厚くなった。今年新しく加わった九州共立大を指揮するのは元学生王者の藤山慎平監督(日体大卒)。今年は個人戦のみの出場だったが、いずれ団体戦に出場し、優勝争いに加わるチームをつくってくれることだろう(下写真=西日本の大学に在籍する主な指導者)

福岡大・田中忠道部長(1969年世界王者=法大卒) 福岡大・池松和彦コーチ(2004年アテネ・2008年北京両五輪代表=日体大卒) 立命館大・伊藤敦監督(右、1988年ソウル・1992年バルセロナ両五輪代表=日体大卒) 日本文理大・勝龍三郎監督(右、1994・95年世界選手権代表=日体大卒)、後藤秀樹コーチ(2005年学生王者=同) 徳山大・磯川孝生コーチ(2009年世界選手権代表=拓大卒) 中京学院大・馬渕賢治監督(1995年年大学王者=日体大卒)

 男子グレコローマン66kg級の藤村義選手(徳山大〜自衛隊)や男子フリースタイル74kg級の鈴木崇之選手(立命館大〜警視庁)ら西日本の大学出身選手でオリンピック出場を視野に入れている選手も育っており、目標とする選手もできた。今年は結果が出せなかったが、飛躍の最大のチャンスを迎えたといっていい。

■強豪高校選手は関東の大学へ進学、難しいスカウト

 東日本の強豪チームでもまれた選手からすれば、西日本のチームはどんなふうに映っているのだろうか。昨秋、福岡大の指導をスタートした池松コーチは「みんなまじめで、話をしっかり聞いてくれる」と言う一方、「くらいついてくるような選手が少ない。技術的には、足の送り方がバラバラだったり、クラッチの手の向きが上下逆だったり、基本から教えなければならない場面にも出くわす」と就任後の感想を話してくれた。

 それから1年が経ち、感じることは「東日本の大学と練習や試合をやる機会が少なく、意識がついていかない」ことと、高校の強豪選手で将来世界を目指すような選手に「西日本の大学では伸びない、という意識があり、来てくれない。スカウトが難しい」ということ。これらの解決は一朝一夕ではできない。連盟を挙げての取り組みで打破してほしい問題である(左写真=秋季リーグ戦が行われたなみはやドーム)

 日程上の問題もある。今年の場合、全日本学生選手権が9月14〜17日に東京で行われ、その8日後に東京で全日本学生王座決定戦、その2日後に新潟国体と続き、遠征が必要な西日本の大学としては、金銭的、体力的に全日本学生王座決定戦をカットせざるをえないと考えるのは仕方ないだろう。

 全日本大学グレコローマン選手権に出場した西日本の大学は2校だけだったが、これも同選手権が10月13〜14日に東京で行われ、同16日から大阪で西日本学生選手権が続くことも影響している。会場の確保が難しくなっている事情は理解できるが、東西の学生連盟でしっかり話し合い、是正が必要な問題であることは間違いない。

 日程上の問題以外にも、現在の実力差では大会に出場しても1試合か2試合で終わってしまうことが多く、池松コーチが口にする「東日本の選手との試合数の少なさ」を克服することはできないのが現状だ。東日本の大学出身の指導者が数大学にちらばったのを機に、東日本の大学との合宿などを積極的に組み、西日本の大学の選手に意識を高めさせることが、まず必要なのではないか。

 池松コーチは、東西交流ではないが実戦練習を増やすために九州リーグの創設を提唱する。福岡大、日本文理大、南九州大、九州共立大の九州4大学と山口県の徳山大の5大学による大会。交通費の負担も軽く、2kgオーバー計量でやれば体力的な負担も少ない。「とにかく試合数を増やすこと。その中から強くなりたいという意識が生まれる」と話す。

■観客を集め、審判員の育成のために大会は土曜・日曜開催で

 こうした強化への取り組みを支えるのが、西日本学生連盟の大会運営への意識の高さだ。西日本学連では、リーグ戦のみならず西日本学生選手権、同新人戦を含めて、大会はよほどのことがない限り土・日曜日に開催している。福田耕治理事長(同志社大監督)は「平日開催ではOBなどが応援に来たくても来られない。多くの人に来てもらって大会を盛り上げるには、土曜、日曜日の開催に限る」と話す(右写真=会場で必死に応援する美人女性の存在も大会の盛り上げに必要。選手の彼女かな?)

 これまでリーグ戦の会場だった大阪府立体育会館が、府知事の方針によって運営が民間委託となり、使用料が高くなってしまって土・日開催が難しくなった。しかし平日開催にはせず、なみはやドームという新たな会場を確保した。

 交通の便は大阪の中心部の難波にある府立体育会館に比べれば不便だが、それでも地下鉄で30分もあれば行ける場所。「平日開催よりはいい」という姿勢のもとので決断。今後も「土・日開催は続けたい。会場確保には全力を尽くす」と言う。

 それは審判員の育成という目的のためでもある。五輪のマットを2度経験した国際特級審判員でもある福田理事長には、審判員の育成という使命もある。「仕事を休んで何度もボランティアで審判に来られますか? 土・日曜日だから来てもらえる」と話す。大会のチェアマンは、微妙な判定の際でも正しく判断ができるように国内A級審判員に努めさせている。平日開催なら審判員の確保が難しくなるので、この面でも土・日開催は変えたくないという(左写真:チャレンジに立ち会う福田理事長=中央)

■飛躍の土台は十分。指導者がそろった今こそ飛躍の好機

 審判員の育成という目的のため、同連盟は独自のルールを採用している。国際レスリング連盟(FILA)の現在のルールは、微妙な判定であっても審判団が協議することなくポイントを挙げ、3分の2の多数決で決定。これに不服がある場合はセコンドによるチャレンジ権(ビデオチェック要求)が行使される。

 西日本の大会では、微妙な判定の場合には必要に応じて審判団が協議する(ビデオは見ない)。そこで出た結論に不服がある場合にセコンドからのチャレンジを受けてビデオをチェックする。「(3審判のうち1、2人がやっている)学生審判を育てるためです」と福田理事長。

 同理事長は「審判は丹念に育てなければ、きちんと育たない」という持論を持っている。「審判は必ず文句を言われるわけです。そんな時に自分たちがケアしてやることが必要。そうでなければ、こんな割の合わない役、だれもやりませんよ。そうしたサポートがあってこそ、信念を持った審判員が育っていくんです」と話し、審判員の育成にはことのほか情熱を傾けている。

 「大切なのは人間関係。来てくれてありがとう、という気持ちを忘れないようにしたい」という姿勢が、「交通費、日当とも0円」という状況であっても、大会の度にきちんとOB審判を集められる要因だ。

 西日本学生連盟のレスリングを盛り上げようとする姿勢はすばらしいだけに、指導者がそろったこれからが、飛躍を期待される時だ(右写真=チアガールも来場するリーグ戦)。同連盟の田中忠道会長(福岡大部長)は「指導者がそろったこれからチャンス。高校の強豪選手が西日本の大学に来てもらえるよう強化に努めたい」と話した。


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