【全日本選手権優勝選手】女子63kg級・伊調馨(ALSOK綜合警備保障)【2009年12月24日】

(文=山口毅、撮影=矢吹建夫)



 女子63kg級のW五輪金メダリスト、伊調馨(ALSOK綜合警備保障)が2年ぶり7度目の全日本チャンピオンに輝いた。

 前日、姉・千春(51kg級)が決勝で敗退。泣く姉に対して「泣くな!」とまで説いた。その“落とし前”をつけるためにも、妹は何が何でも優勝して姉を元気づけたかった。その姉と約8か月間留学していたカナダから帰国したのが1週間前。「時差ボケの中で闘ってました」と振り返る伊調の優勝までの道のりは険しかった。

 準決勝で復帰してきた59s級の元世界チャンピオンの山本聖子(スポーツビズ)が立ちはだかり、決勝では2008&2009世界選手権優勝の西牧未央(中京女大)が待っていたからである。

 山本には第1ピリオド、タックルをカウンターで投げられて0−4で取られ、苦戦しながらの逆転勝利。西牧に対しては失ポイント0の勝利とはいえ、中京女大の後輩として何度も練習している間柄。自分も知っているが、西牧も自分のことは熟知している。「未央はスピードもテクニックもある。その相手に同じ技で勝負しようとは思わなかった」という言葉は、たとえ後輩とはいえ、西牧の実力を十分に認めている証だ。

 そんな伊調は西牧のタックルに素早く反応し、グラウンドでも不利な体勢になることはなかった。第1ピリオドのボールピックアップで攻撃権を得ると、きっちりとタックルでポイントをとった。第2ピリオドはボールピックアップの攻撃権を西牧がとったが、タックルを切って、バックに回ってポイントを奪い、見事に優勝を飾った。五輪で2度も頂点に立っている選手と、2年連続世界選手権王者の差とは、こういうものなのかと考えさせられた一戦でもあった。

 準決勝で戦った山本聖子に関しては「楽しんでレスリングをしているのが伝わってきた」と話す一方で、伸び盛りだった高校時代の時に先輩である山本にお世話になった恩返しを試合でしたかったというのも事実。

 伊調を頂点とする63s級の戦いは、来年の全日本選抜選手権の時点ではもっと拮抗(きっこう)しているかもしれないし、逆転しているかもしれない。あるいは、伊調がさらに上を行っているかもしれず、予想がつかない。いずれにしても3人の新旧世界チャンピオンが今回の全日本選手権63s級を面白くさせてくれたことだけは間違いない。

 現段階で一歩抜け出ている伊調が言った。「体力をしっかり戻して、明治乳業杯でしっかり勝ちます」−。


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