【全日本選手権優勝選手】男子フリースタイル55kg級・稲葉泰弘(警視庁)【2009年12月24日】

(文=増渕由気子、撮影=矢吹建夫)



 男子フリースタイル55kg級は、昨年王者で今年の世界選手権代表の湯元進一(自衛隊)が高校3年生の森下史崇(茨城・霞ヶ浦高)に2回戦で敗れる波乱の展開。その森下を準決勝で破った稲葉泰弘(警視庁)が、決勝戦で新潟国体優勝の田岡秀規(自衛隊)を下して大会初優勝を飾った。

 涙の優勝だった。ポーカーフェイスで知られる稲葉が、勝ち名乗りを受けると、何度も手で顔をぬぐった。「やっと優勝できました」。2007・08年の国体を連覇したほか、世界学生選手権やゴールデンGP決勝大会のメダルを持って帰るなど海外成績も十分に積んでいた稲葉は、常に優勝候補の筆頭だった。だが、肝心の全日本選手権と全日本選抜選手権では2位や3位にとどまり、それを尻目にライバルの湯元は全日本のタイトルを獲得し、世界選手権の代表にまでなっていた。

 学生時代から湯元とは五分の成績。だが、「最近は負けこんでいた」と差を開けられており、これ以上の負けは許されなかった。ドローが発表され、第1シードに構える湯元と準決勝で闘う構想を抱いていたという。だが、準決勝に勝ち上がってきたのは、思いもよらない選手だった。母校、茨城・霞ヶ浦高の後輩で、今年の高校MVPの森下が準決勝に進出してきたのだ。

 「湯元先輩も負けて、自分も負けたらヤバイことでしょ」と、先輩&社会人としての面子をかけて闘うことになった。勝たなくてはいけないという使命が、結果的には集中力を高め、功を奏した結果となった。2ピリオドともにテークダウンを奪うと、ニアフォールやローリングでともにテクニカルフォール勝ち。文句なしの内容で勝利をおさめた。

 決勝はベテランの田岡との対決。第1ピリオドはラスト・ポイントで落とし、第2ピリオドも先制するものの、最後の3秒でバックに回られ、レフェリーは1点を挙げた。完全に失点した形だったが、稲葉のセコンドがチャレンジ(ビデオチェック要求)すると、稲葉の手足の3点ついてないという判定に覆りノーポイント。勝負の第3ピリオドは気迫で2−0と田岡を突き放した。

 優勝インタビューでは、「苦しい時期が続いたけど、オリンピックで金メダルを取るのが目標」とキッパリ宣言。専大で佐藤満・現日本強化男子強化委員長の指導を受け、それを土台に警視庁で進化を続けた稲葉がついにその才能を開花させた。


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