【特集】激戦の女子59kg級を制したキャリア16年の19歳、梶田瑞華(中京女大)【2008年2月4日】







 前世界チャンピオンの正田絢子(網野ク)が、一時的かもしれないが抜けて混戦模様となった女子59kg級。昨年12月の天皇杯全日本選手権を制し、今年10月に東京で行われる世界選手権へ向けて一歩リードしたのが19歳の梶田瑞華(中京女大=左写真)だ。

 過去、2005年にアジア・カデット選手権(茨城)2位、2006年世界ジュニア選手権(グアテマラ)5位と、まずまずの成績は残していた。しかし、2005年世界ジュニア・チャンピオンで昨年のジャパンビバレッジクイーンズカップ優勝の山名慧(中京女大)、同2位の島田佳代子(日大)、67kg級世界5位で2階級下がってきた井上佳子(中京女大)といったメンバーがそろった中で、梶田の優勝を予想する声はまったくと言っていいほどなかった。

 終わってみれば、山名、島田、井上を相手にポイントを奪われることなく、すべてピリオドスコア2−0での勝利。番狂わせを演じ、一歩先んじる形となった。「けっこう調子がよくて、自分の試合ができたけれど、優勝できるとは思っていなかった」と本人も“予想外”の優勝。「まだ余裕のある優勝ではありませんから…」と、運のよかった面があったことも強調しつつ、「守りはよくできた」と自画自賛し、今後につなげたい気持ちが十分だ
(右写真=全日本選手権決勝で井上佳子を攻める梶田)

 攻撃しなければ勝てないレスリング。しかし、試合開始からやみくもに攻めればいいものではない。これまでは、攻め疲れて逆にやられることも多く、栄和人監督から勝負どころで仕掛ける攻撃を指導されていた。この大会では、ここぞという時に集中して力を出すことができ、攻撃面で大きな進歩があった。課題をしっかり克服したわけで、細かく分析してみれば、“まぐれ”でも何でもなく、実力がついたからの優勝だったのかもしれない。

■キャリア16年! しかし、レスリングに目覚めたのは…

 3歳の頃から岐阜県高山市の「マイスポーツ」でレスリングに親しんだ。母が市の新聞でレスリング教室の存在を知り、通うことになったのだという。しかし、周りは男の選手が多く、好きで通い続けたわけではなかった。

 全国少年少女選手権での優勝が1回あるものの(1996年)、それ以外に大きな大会での優勝はなし。全国中学生選手権も1年生の時に2位に入っただけで、2、3年生の時は順位なし。現在の中京女大での同僚の西牧未央選手が小中学校時代にずば抜けた成績を残していたのに対し、梶田は西牧の後塵を拝するばかりで、中学を卒業するまで優勝とはほとんど縁のない生活を送っていた。

 何度も辞めようと思ったそうだが、「母から『辞めるなら、先生に直接言いなさい』と言われ、その勇気がなくて、ずっと続けることになったんです」と笑う。その“怖い先生”であるマイスポーツの洞口善幸代表は「素質はあった。辞めたいと言ってきても、辞めさせるわけにはいかなかった。西牧といい試合をやっていたし、必ず伸びると思った」と振り返る。

 そんな思いが、日体大レスリング部の同窓生でもある中京女大の杉山三郎部長(当時)へ伝わる。高山まで足を運んでくれ、「中京女大附高校(現至学館高校)に」と熱心に誘ってくれた。「都会に行きたかった」という気持ちもあって親元を離れての生活へ。そこでの生活は、先輩に世界で通じる選手がごろごろ。マイスポーツ時代と違って周囲に女子選手がいて、おしゃべり相手にも事欠かない。「やっとレスリングが面白くなりました」。
(左写真=2005年アジア・カデット選手権で闘う梶田を見守る伊調姉妹と吉田沙保里)

 世界チャンピオンと連日練習し、私生活でも充実したことが実力をつけた一因なのだろう。もちろん、すんなりといったわけではなかった。栄監督は「突き放すような厳しいことも言った。でも、ついてきた。根性はありますよ」と言う。さらに「吉田沙保里や西牧のようなキッズ時代から能力を全開にしてきた選手を育てるのもいいけど、梶田のような選手を育てるのも、やりがいを感じる。必ず世界チャンピオンに育てる。それだけの素質も根性もある」と言い切る。

■まず3月のアジア選手権でシニアの国際舞台に初挑戦か

 梶田は、現在の課題をスタミナの養成と外国選手のレスリング・スタイルの研究においている。これまでにカデットやジュニアで外国選手と闘った経験からして、「日本選手とはスタイルが違う」と感じており、日本選手を相手にする時と同じように闘っては勝てないことを経験したからだ。

 こうした言葉が出てくるあたりは、世界に目が向いている何よりの証拠だ。その第一弾が、まだ正式決定ではないが、全日本選手権で勝ったことで出場が濃厚となっている3月のアジア選手権(韓国・済州島)だ。「初めてのシニアでの国際大会になります。カデットとジュニアで勝てなかった分、頑張りたいと思います」と燃えている
(右写真=中京女大で練習する梶田)

 もちろん国内にも敵は多い。山名や島田、井上がこのまますんなりと日本代表を譲ってくれるとは思えないし、「幼稚園時代から1度も勝ったことがない」という西牧が59kg級に戻ってくる可能性もある。正田がこの階級に出てきたら、さらに簡単には勝つことはできまい。

 しかし“全日本チャンピオン”という自信は大きいはず。このリードを守り切って、東京での世界選手権にコマを進めるか。栄監督は「山名、井上、柴田(瑞穂=55kg級)、甲斐(友梨=51kg級)…。実績がなくても、誰もが世界チャンピオンになれる可能性があるんだ。競り合って、必死になって頑張ればいいんだ」とエールを送っている。



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