ボールピックアップ時にチェアマンが種明かし…ノビサド大会から【2008年5月29日】







 コイントスに不正疑惑が持ち上がったことで、今年3月のパンアメリカン選手権(米国)から採用されたレフェリーによるボールピックアップ。しかし、方法が変わっても立て続けに同じ色のボールが出ると、”運命”で勝負を左右される歯がゆさから、選手やコーチ陣のフラストレーションはたまるばかりだった。

 「同じ色しか入っていないんじゃないの?」「袋の中でボールを固定してるんじゃないの?」。五輪出場権をかけた3月のアジア選手権(韓国)では、そんな声が多数聞かれた。

 その声を反映してか、5月23〜25日にセルビア・ノビサドで行われた男子グレコローマンの五輪最終予選ではボールピックアップに少し改善が見られた。各試合で最初のボールピックアップ時に、チェアマンが赤と青のボールを袋から取り出して、不正がないことをアピールするようになった
(右写真)。さらに、ボールを入れた袋を何度もシェイクしてから、レフェリーに差し出すようになった。レフェリーも、あからさまに袋の方を見ないようにピックアップする姿が目立った。

 今回、日本から国際審判として参加した酒井久治氏は、「審判会議でボールピックアップの変更点は周知されなかった。おそらく、チェアマンだけの集まりで通達されたものだと思うが、現場で、『なるべく袋の方を見ないでくれ』という指摘を受けているレフェリーを見ました」と証言
(左写真=そっぽを向いてボールを取る審判)。男子の五輪予選最終予選ということで、不正疑惑を持たれることなくすっきりしたいという国際レスリング連盟(FILA)の意向の表れだったのだろうか。

 5月初めにポーランドで行われた男子フリースタイルの最終予選では、立て続けに偏った色のボールが出たことでフラストレーションが溜まった北朝鮮のコーチが激怒。チェアマンが持っていたボール袋を取り上げようとし、試合が中断した”事件”が起こっている(参照記事)。その試合を担当したレフェリーは袋をのぞき込みながらボールを取ったという証言もあることから、北朝鮮サイドに同情する声も多かった。「どんなに身長が高くても、のぞき込みながら思うボールは取れません」と酒井氏は断言するが……(酒井氏の身長は175cm)。

 ボールピックアップは、1分間で両者に得点がなかったという”ペナルティ”として採用された。だが、そのルールで勝負が決まっている以上、ボールピックアップの不正は厳禁だ。今回の”種明かし”で少しは、関係者のイライラも解消されればいいのだが、”運”に左右されない勝負運びという根本的な部分は改善されていない。

(取材・文=増渕由気子)



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