【特集】4大会連続無冠の屈辱からはい上がれるか、高校レスリング界の雄・霞ヶ浦【2008年6月5日】







 霞ヶ浦高校といえば、1990年から2000年にかけてインターハイ11連覇を達成するなど、輝かしい成績を持つ高校レスリング界の超強豪チーム。「KASUMI」のシングレットを着ているだけで強く見えるとさえ言われ、”常勝チーム”のオーラを放っている。

 しかし、昨年の夏から苦戦が続いている。佐賀インターハイでは秋田商(秋田)に敗れて2年ぶりの団体優勝を阻まれた。今年2月の関東高校選抜大会では花咲徳栄(埼玉)に決勝で敗れた。続く3月の全国高校選抜大会では決勝で京都八幡(京都)に敗れて2連覇ならず。

 迎えた5月31日〜6月1日の関東高校大会(埼玉・東松山市)。この大会は昨年まで13連覇中で過去24度の優勝経験がある。3年ぶりのインターハイ団体優勝に向けて、建て直しを図るいい機会だった。しかし……。

■「指導者が悪い」と自分を責めた名匠・大沢監督

 個人戦の総合得点で団体戦を競うこの大会。初日で優勝の可能性がなくなってしまうという事態になってしまった。創部4年目ながら急成長の花咲徳栄が5階級で決勝進出。一方で霞ヶ浦高は3階級しか決勝に駒を進められなかった。敗者復活戦で必死にポイントを稼いでも差を縮められず、決勝を前にして大沢友博監督
(右写真)は「今回は完敗です」と白旗を挙げた。

 結局、霞ヶ浦は84s級の菊池峻のみが優勝。「(関東大会で)1階級しか取れないなんて、霞ヶ浦高史上最悪の結果です」と大沢監督。敗北の原因を問われると、真っ先に「指導者が悪いんです」と自分を責めた。

 霞ヶ浦が常勝軍団を築いた原動力は猛練習であり、その厳しさは他の追従を許さなかった。現在もそのスタイルは継続中だという。しかし、ルール改正後、ボールピックアップに持ち込まれて負けるパターンが増え、”常勝・霞ヶ浦”の歯車がずれてしまった。世界においても、2分3ピリオドの現在のルールで勝ち続けるのは難しい。ただ、大沢監督は、「原因はルール以外にもある」と語り始めた。

 「力のある選手はいます。けれど、ライバル高校(花咲徳栄など)に比べると声が出ていない。3年生がおとなしく、他校の『霞ヶ浦高に何が何でも勝ってやる!』という気迫に負けてしまいました。そもそも、大会前から負けていました。大会前に山梨で合宿を張ったんですが、ヘルペスが流行してしまって、調子を落としたまま本番に臨んでしまった」。

 「大きい大会であるほど力を発揮できる」と言われる霞ヶ浦でも、これだけ満身創いの状況を乗り越えるのは難しかった。表彰式の最中、次から次へと他高の生徒が優勝メダルを受賞する光景に、大沢監督はため息をついた。「これで、うちの学校に優勝旗がなくなっちゃった」。インターハイ、関東高校選抜、全国高校選抜、そして関東大会と、常に(その大半が4本の)優勝旗が“常設”してあった霞ヶ浦。4大大会すべてで優勝に手が届かなかったのは、常勝軍団を築いてから初めてのことだ。

■群雄割拠の高校レスリング界で巻き返しなるか

 今後へ向けて、明るい材料もある。霞ヶ浦高の伝統を死守した84s級王者の菊池峻は2年生。3月の全国高校選抜大会でも優勝しており、大沢監督も将来性を認めている。「来年、強いのは霞ヶ浦」との声も聞かれる。それでも、大沢監督は”今”を諦めていない。「まずは今年。8月まであと2ヶ月。このメンバーで作り直します。生徒たちも、これではダメと分かってくれたと思います」。
(左写真=インターハイ王座奪回に向けて選手をあたたかく見守る大沢監督)

 近年の高校レスリング界は、大学レスリング界と同じで群雄割拠の時代に突入している。「北から(挙げると)、秋田商、花咲徳栄、上田西、京都八幡、玉名工業…、全部で8校くらい強力なライバルがいる。今年は本当に激戦です」と大沢監督。かつては1、2校の研究で済んでいたライバル分析が、現在はその4倍。しかも霞ヶ浦は王者ではなくチャレンジャー。そこを勝ち抜くのは、かつての何倍もの力が必要だろう。

 今夏のインターハイは、無冠の悲劇を食らってしまった関東大会の会場(大東文化大学体育館)で行われる。2ヵ月後、同じ場所で大沢監督の胴上げを見ることができるか? 高校レスリング界に不滅の金字塔を打ちたてた霞ヶ浦高の意地に期待したい。

(取材・撮影=増渕由気子)



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