【特集】「湯元は健一だけじゃなく、進一もいます!」…フリー55kg級・湯元進一【2008年6月26日】






 北京オリンピックの出場は、すでに松永共広(ALSOK綜合警備保障)が決めており、松永は今回の明治乳業杯全日本選抜選手権にはエントリーしてこなかった。したがって、今回の大会は五輪選考とは関係ない大会だが、エントリーしてきた10人の選手たちにとっては、“今の力”が試される貴重な大会になる。気が早い話だが、2012年ロンドン五輪へ向けてのスタートを切る大会といっても言いすぎではないだろう。

 “二番手争い”をめぐる混戦を抜け出す候補の一番手に上がっていた2006年のこの大会を制している田岡秀規(自衛隊)は順当に勝ち上がって決勝へ進出した。

 決勝の相手は同門の湯元進一。右足前に出して構える田岡に対し、湯元は左足を前にするオーソドックスな構え。両者手の内を知り尽くしているだけに、なかなか踏み込めない。試合開始から1分過ぎ。右足へタックルを仕掛けた湯元が場外へ押し出して1ポイントを先制する。田岡は巻き投げを狙うが、湯元が切り返して場外へ押し出し1ポイント追加して第1ピリオドは湯元が制した。

 第2ピリオドも一進一退の攻防が続く。田岡の右足へのタックルをバックステップでかわした湯元だが、次にきた左足へのタックルでテークダウンからバックに回られると、このピリオドは田岡が制した。

 第3ピリオドは片足タックルを二度仕掛けた湯元だが、田岡は切る。一方の田岡も右足をわざと前に出すフェイントからの攻撃を試みるが、両者ポイントを奪えず、延長戦へ。自らのシングレットと同じ色のボール(青)を引き当てたのは湯元。クリンチから一気に片足タックルを決めて、全日本選抜初優勝を果たした
(右写真=優勝を決めて応援席に手を振る湯元)

 試合後のインタビューでは「健一ばかりが、いつもいい思いしてますけど、湯元は健一だけじゃなく、進一もいます」とアピール。この言葉、昨年のこの大会で言おうと思いながら、言う機会がなかったもののようで、1年越しに言う場をつかんだ。

 その後はフリースタイル60kg級で初戦敗退しながらも、プレーオフへ向かう兄・健一へのサポートに回った。


 湯元進一の話「いつも兄貴ばかりが勝って、自分はいつも表彰台の一番下にいて。オリンピックにも出場できないのですが、この試合に勝てて優勝できたことで、ロンドン五輪への道も開けたかなと思っています。自分が勝ったので、兄貴の励みにもなると思います。大会前はお互いに『絶対優勝しよう』と誓い合いました。兄貴は1回戦負けてしまいましたが、プレーオフで勝てばオリンピックですから、自分の優勝より、全然すごいこと! 兄貴はオリンピック争いをしているのに、自分は、という引け目もありますけど、今回は兄貴がプレーオフで勝つことを信じて思いっ切りサポートしようと思っています。(決勝の田岡戦は)やはり、自衛隊体育学校の先輩なので、やりづらかったのですが、勝たなければいけないという気持ちでぶつかりました」

(取材・文=三次敏之、撮影=矢吹建夫)



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