【特集】ロシアを率いるセルゲイ・ベログラゾフ監督に聞く【2008年10月18日】
今回の世界女子選手権と15日から東京・ナショナルトレーニングセンター(NTC)行われている世界合宿には、ロシアの監督として、2度の五輪を含めて世界を8度制し、全日本チームのコーチを務めていたセルゲイ・ベログラゾフ氏も参加した。
2006年からロシア女子チームを指導。2年という短い期間では五輪チャンピオン、世界チャンピオンを誕生させることができなかったが、2012年ロンドン五輪に向けて、日本を激しく追い上げることが予想される。
世界合宿に参加しているセルゲイ・ベログラゾフ監督にロシアの女子事情を聞いた(右写真、聞き手=樋口郁夫、通訳=ビル・メイ)。
北京オリンピック | ||
48kg級 | Rakhmanova, Zamira | 11位 |
55kg級 | Golts, Natalya | 8位 |
63kg級 | Kartashova, Alena | 銀メダル |
72kg級 | Perepelkina, Elena | 11位 |
世界女子選手権 | ||
48kg級 | Tazetdinova, Elza | 14位 |
51kg級 | Vilmova, Marina | 5位 |
55kg級 | Smirnova, Natalja | 5位 |
59kg級 | Golts, Natalya | 銀メダル |
63kg級 | Volossova, Lyubov | 銀メダル |
67kg級 | Bartnovskaya, Youlia | 5位 |
72kg級 | Starodubtseva, Alena | 5位 |
■日本や中国と大きな差はない。強化の方向は間違っていない
――ロシア選手の北京オリンピックと今回の世界選手権での闘いを振り返ってください。
セルゲイ監督 オリンピックでは55、63、72kg級の中から2個のメダルを期待していました。しかし1個に終わった。72kg級の選手にけががあったこともありますが、ちょっと残念な結果に終わりました。
――2つの大会で金メダルを取れなかったのは、何が原因でしょうか。
セルゲイ監督 日本や中国と比べて大きな差はありません。強化の方向としては正しい方向を向いていると思っています。ジュニアの選手もきちんと育っていますし、このまま強化を続ければ、ロンドン五輪ではチャンピオンが生まれると思います。
――日本は射程距離ですか?
セルゲイ監督 日本が頭ひとつ抜け出ていますが、一番手選手はピークをすぎているのではないでしょうか。今年の世界ジュニア選手権などを見ると、ロシアが追いつくのは難しいことではないと思っています。
■国内で勝った選手ではなく、世界で勝てる選手を選んだ
――セルゲイさんが監督に就任(2年前)してから伸びましたでしょうか?
セルゲイ監督 ロシアの女子は歴史が浅く(注=それでも1991年世界大会から参加している)、協会として本腰を入れていない面がありました。指導者もそれほどでないコーチが多かった。私が監督になった時の技術レベルは決して高いものではありませんでしたが、一歩一歩実力を伸ばしてきたと思います。協会が(女子に対して)しっかりしていない国でも女子選手が誕生していますし、世界的にレベルが上がっていくと思います(右写真=北京オリンピック決勝で伊調馨と激戦を展開したアレナ・カルタホワ)。
――北京オリンピックの55kg級の代表に、ロシア大会で2位に終わったナタリア・ゴルツ(左写真)を選びましたね。
セルゲイ監督 ロシアには、アメリカのように代表決定大会はありません。ロシア大会の55kg級で優勝したのはナタリア・スミルノバですが、それまでの国際大会で一番安定した成績を残していたのがゴルツでした。オリンピックで勝てる選手、日本に勝てる選手を選びました。
――そのやり方で不満は出ませんか?
セルゲイ監督 今回は出ませんでした。オリンピックを狙える選手はさほど多くないので、できたのだと思います(注=ただし、72kg級は1位の選手と2位の選手の実力を見極めることができず、プレーオフをやって決めた)。
■10人のエリートを育てるのではなく、底辺を広げ全体の実力をアップさせたい
――どんな環境で活動をやっていますか?
セルゲイ監督 モスクワが中心ですが、そこだけではなく、クラスノヤルスクなどロシア全体でやっています。ミンスク(ベラルーシ)、キエフ(ウクライナ)などとも積極的に交流しています。
――女子の競技人口は?
セルゲイ監督 はっきりした数字は分かりませんが、最近増えているのは確かです。以前はオリンピック種目ではなかったため、やる選手が少なかった。オリンピック種目になってから増えました。シベリア出身の選手が多いですね。(五輪種目になって)金銭的な見返りがあるようになったことも大きいと思います。オリンピックで7階級が実施されるようになったら、もっと選手数が増えると思います。ただ。協会の女子レスリングを認知させるための方法は、ちょっと物足りないです。
――もっと底辺を広くしたいということですね。
セルゲイ監督 10人のエリート選手を強くするのではなく、底辺を広げ全体をレベルアップさせるのが私の方針です。日本は一軍と二軍の差があると思います。これでは、いつかは力が落ちると思います。日本の男子はかつて世界の軽量級を制していましたが、オリンピック・チャンピオンが生まれなくなってしまいました。今のままなら、女子もそうなる可能性があります。全体をレベルアップすることが、強さを維持するのに必要なことです(右写真=ロシア選手を指導するセルゲイ監督)。
――今年の冬はどんな強化計画を考えていますか?
セルゲイ監督 日本に来る機会があれば来て鍛えたい。特にジュニア選手。私が日本でコーチしていた時(1994年7月〜98年3月)は、こんなすばらしい施設(NTC)はなかった。すばらしい練習環境です。今回の合宿は、世界選手権が終わった直後なので心身ともにきつかったです。冬は国内外の大会日程を考えながら計画を立てようと思っています。