【特集】ロンドン五輪を目指し、ブラジルから2選手が参加…世界女子合宿【2008年10月20日】



 10月11〜13日の世界女子選手権に続いて、東京・ナショナルトレーニングセンター(NTC)で世界合宿が行われた。女子レスリングのリーダーである日本が、世界の女子レスリングのレベル向上を願って開催しているもので、昨年に続いて4度目の実施。今回は日本から見るとちょうど地球の裏側にあるブラジルからも2選手が初参加し、日本のレスリングを学んだ。

 参加したのは59kg級で世界選手権にも参加したジョイス・シルバ(25歳)と、72kg級で北京五輪にブラジル女子選手として初出場し8位に入賞したロサンヘラ・コンセイサゥン(35歳)の2選手。ブラジルの女子レスリングは決して恵まれた環境にはなく、今回の来日もかなりの自己負担が必要だったとのことだが、2選手とも「ロンドン五輪を目指します。メダルを取りたい」とやる気十分の参加だった(右写真:吉田沙保里選手とカメラにおさまるシルバ選手=左=とコンセイサゥン選手)

■少ない競技人口。ふだんは紅一点で練習

 ブラジルといえば、日本の格闘技メディアは「総合格闘技王国」と報じている。確かに「バーリトゥード」と呼ばれる総合格闘技はブラジルが発祥の地であり、そこそこの存在ではあるようだ。

 しかし地上波テレビでは放映されておらず、扱うメディアは限られているという。日本の格闘技ファンが思っているほどの存在ではなく、コアなファンに支えられている競技。人気や注目度ではサッカーの足元にも及ばず、バレーボールなどの方がメジャー。格闘技としては五輪種目の柔道や、ブラジル古来の格闘技であるカポエラなどの方がステータスがあるようだ。

 レスリングは、総合格闘技をやっている選手は必ずと言っていいほどその練習をするので、格闘技界に浸透はしている。しかし、レスリング自体が世界レベルに達していないこともあり、決して大きな存在ではない。1998年ごろに始まった女子にいたっては、「レスリングをやっている」と言うと、「女子にもレスリングがあるの?」と返される状況。

 選手数も各チームに1選手いるかいないかの程度で、シルバはリオデジャネイロのチームで、コンセイサゥンはサンパウロのチームで、ともに紅一点で練習している。時に他のチームの選手と練習するのが、唯一の女子選手と練習する機会。柔術の選手に練習の相手をやってもらうことも多いと言う。

■悪条件にもかかわらず、2012年ロンドン五輪を目指す

 こんな状況ではあるが、レスリングに魅せられた2選手は、しばらくレスリングを続けるつもりだ。シルバは大学を卒業して仕事にありつけない状況だが、親からの支援を受けながら4年後を目指してマットに立つ。

 コンセイサゥンは大学の体育教師であり、ダウン症の子の世話をやっている。いずれは女子のチームをつくって普及に貢献したいという気持ちを持っている。35歳であり、年齢的に選手としてはかなり厳しくなるであろうが、ロンドン五輪を目指す気持ちがあるからこそ大金を投じて日本に来た。

 北京五輪では2回戦で浜口京子選手と対戦した(左写真=善戦むなしくフォール負け)。「グレート・アスリート。粘りがあり、ファイトがすばらしい。(日本語で)サムライですね。北京五輪も世界選手権も優勝できませんでしたが、72kg級で一番すばらしい選手は浜口選手だと思います」と、そのすごさに舌を巻き、世界トップレベルの闘いにまだ身を投じていたい気持ちが十分。「浜口選手からレスリングを習いたい。浜口選手を目標にロンドン五輪でメダルを取りたい」と言う。

 2人とも機会があれば今後も日本での練習に参加したい気持ちを持っている。「日本のチームの練習に参加できますか? どんな手続きが必要ですか? 協会同士ではなく個々のクラブでも受け入れてくれますか?」など、矢継ぎ早に逆取材してきたほど。“女子レスリング王国”日本での合宿参加は、2選手に強烈な印象を残したようだ。

■花開け! 南米、サンバの国の女子レスリング

 パンアメリカン選手権でメダルに手が届く選手がちらほら出現したものの、まだ世界選手権でのメダルには程遠いブラジルの女子レスリング。それでも、3年前には日本にコーチを派遣してほしいという打診があったほどで(諸条件により派遣できず)、レスリングの発展を願う気持ちは強い。

 女子レスリングは、世界中に確実に広がっている。ブラジルからも世界選手権のメダリスト、そして世界チャンピオンが誕生することを願いたい。

(文・撮影=樋口郁夫、通訳=ビル・メイ)


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