【特集】質・量ともナンバーワンへ! 東京のキッズ・レスリングの行く道は?【2008年11月11日】



 11都県から74チーム761選手が参加した東日本少年少女選手権(右写真)。この中で最多の出場数だったのが、クラブ数・選手数とも東京都で、20チーム(中学校など全国少年少女連盟加盟外の4チームを含む)213選手が参加した。日本最大の都市が、いよいよキッズ・レスリングの中心地となりそうな雲行きだ。

■10年前は3チームだった東京都のキッズ・チーム

 人口が多いのだから、クラブが多くて選手数も多いと考えるのが普通だ。事実、今年度の高校野球で加盟校と選手数が最も多い都道府県は東京都(265校1万1114選手)。他に多いところは、北海道(262校7741選手)、神奈川(193校7939選手)、大阪(193校8580選手)、愛知(186校8312選手)など。

 ところが、レスリングは東京がナンバーワンでなかった時代が長く続いていた。日本協会事務局に「東京でやっている少年クラブを教えてほしい」という電話があっても、答に窮していたのが現状。10年前の都内の少年クラブは「スポーツ会館」「杉並チビッコ」「体力づくり」の3チームだけだった(木口道場の当時の所在は神奈川)。

 しかし、ここにきて様変わり。今年度初めの段階で17チームが全国少年少女連盟に登録。神奈川の13チーム、埼玉と静岡の各11チーム、茨城の9チームなどを抜いて、いつの間にか日本最多のクラブ数となった。2007年まであった全国少年少女大会の団体戦では、東京のチームは長いこと入賞できなかった。最初に入賞したのは2001年に2位になった高田道場。昨年はGOLD KID’Sが優勝し、団体戦表彰のなくなった今年も最多の9階級で優勝。実力の面でも全国一の地位を勝ち取った。

 東日本少年少女連盟の吉田信男会長(木口道場)は、クラブ数の増加を「(レスリングの)情報が多くなったのが一因だと思います」と分析する。オリンピックにおける活躍で、レスリングの知名度が上がった。「人口が多いのですから、当然、やらせてみようという保護者も多いわけです」と話す。

■総合格闘技の発展がキッズ・レスリングを盛り上げる!

 クラブを分析してみると、昨今の総合格闘技のブームの影響も大きいようだ。加盟クラブのうち、「高田道場」(高田延彦代表)、「AACC」(阿部裕幸代表)、「坂口道場」(永田克彦代表)、「KRAZY BEE」(山本徳郁代表)、「パレエストラ東京」(中井祐樹代表)の5チームが、プロ選手あるいは元プロ選手が経営している道場のチーム(他に、東京イエローマンズ=朝日昇代表=が東日本少年少女選手権に出場)。

 これは東京に限らず、埼玉には「PUREBRED大宮」(池田久雄代表)、「STF所沢」(豊島孝尚代表)、神奈川には「パンクラスジュニア」(鈴木みのる代表)、「秋本道場JJ」(秋本じん代表)などがある。道場にレスリングのマットがあるので有効に使用したいという道場長の思惑と、キッズに最も適した格闘技がレスリングと考えられ、保護者の「子供を強くしたい」という意識とぴったり一致した結果といえよう。

 小学校の体育館を借りての練習ではないため、入会金や月謝も従来の感覚とは違う。以前は「入会金2000円、月会費1000円」といった教室が普通で、ともに「0円」というところも珍しくなかった。総合格闘技の道場では、「入会金が1万円や1万5000円、月謝が5000円や1万円」が相場。これだけの金を出しても、子供にレスリングをやらせたい親が増えているのも事実で、時代の流れとして受け止めていくべきだろう。

 故八田一朗会長は「プロとアマは車の両輪。プロが栄えればアマも栄える」と、プロとの共存共栄をはかった。現在は「レスリングと総合は車の両輪」といったところか。総合の発展が、レスリングの普及につながっているのは間違いない事実だ(右写真=坂口道場の永田克彦代表)

■クラブの大同団結で、さらなる発展が望まれる

 東日本のキッズ界をがっちり固めたいとして昨年重責を引き受けた吉田会長は、「東京都に少年少女連盟というのが必要になってきましたね」と言う。キッズ・レスリングの総本山として大同団結し、全国のキッズ・レスリング界を引っ張っていかねばならないのは当然だ。

 では、その船頭はだれか? 幸い、オリンピックや全日本クラスで活躍した選手が何人もいる。「ワセダ・クラブ」の太田拓弥代表(1996年アトランタ五輪銅メダル)、「坂口道場」の永田克彦代表(2000年シドニー五輪銀メダル)、「第六機動隊少年部」の田南部力代表(2004年アテネ五輪銅メダル=左写真)、「拓真塾」の朝倉利夫代表(1981年世界選手権金メダル)、「GOLD KID’S」の成国晶子代表(1990・91年世界女子選手権金メダル)…。

 自らのクラブの繁栄だけではなく、全体の発展を考えての行動が望まれる指導者たち。吉田会長は「私たち年配の人間が、そうしたことのできる環境をつくらねばならないでしょう」と語気を強める。

■高校レスリング界までつなげられるか? 一致団結での努力を

 もうひとつの課題を指摘するのがワセタ・クラブの太田代表。「選手がこのまま育っても、高校での受け入れ先が少ないんですよ」と不安を話す。現在、東京都でレスリングをやっている高校は10校(すべて私立)。レスリング部の顧問の先生も高齢化している。少子化で教員の採用が減っている現在、5年後、10年後に選手とスパーリングのできる先生が何人いるか分からない状況だ。

 東京にいては選手として成長できないとばかりに、小学校あるいは中学校卒業と同時に茨城県や京都府など他県へ活路を求める選手もいる。せっかく育ちつつある首都のレスリングの芽。高校で断ち切られてしまっては、大きな損失だ。キッズから高校までのレスリング界が一丸となって将来を考えていかねばなるまい。

 少子化の時代にもかかわらず、競技人口が増えているキッズ・レスリング。この流れを止めてはならない。レスリングに情熱を燃やす人たちの手によって、力強く育てていってほしい。

(文・撮影=樋口郁夫)


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