【特集】「タックル王子」から「がぶり王子」に変身? 進化したスーパールーキー高谷惣亮(拓大)が大学初タイトル【2008年11月20日】



 11月15〜16日に行われた内閣総理大臣杯全日本大学選手権で、拓大の高谷惣亮(左写真)が史上16人目の1年生王者に輝いた。「やっと、2位から脱出できました」とうれしそうな笑顔を見せた一方、「本当は6月の全日本選抜選手権で優勝するつもりだった」と、スーパールーキーらしく意識の高さを見せた。

■6月の全日本選抜選手権で歯車が狂った!

 2007年12月の天皇杯全日本選手権の74kg級で、高校3年生ながら決勝戦に進出し準優勝。“タックル王子”としてマスコミに大きく取りあげられ、拓大に進学してわずか1ヶ月後の北京五輪最終選考会(5月・ポーランド)では日本代表として戦った。大学1年生ながら存在感はバツグン。2012年ロンドン五輪に向けて日本中量級のエースとしてエリート街道をひた走る予定だった。だが―。

 6月の全日本選抜選手権。得意のタックルを中心に下馬評どおりに決勝進出した。だが、ディフェンディング・チャンピオンの萱森浩輝(新潟・新潟県央工高教=右写真、青が萱森)にラストポイントで逆転負け。高谷が「ここで歯車が狂った」と振り返る通り、8月全日本学生選手権でも決勝で宮原崇(明大)の4年の意地に屈して2位。9月のおおいたチャレンジ国体は準決勝で高橋龍太(埼玉・自衛隊)に1−2で敗れて3位どまり。大学1年生としては十分な結果に思えるが、北京五輪予選日本代表の高谷にとっては、タイトルに手が届かないはがゆさばかりが残った。

  “タックル王子”の愛称のとおり、高谷の生命線はタックル。また、「売りはタックル。組み手はしない」とスタイルにもこだわりを持っている高谷は、タックルの精度を上げて勝つことにレスリングのやりがいを感じている選手だった。

 大学進学後も自分のスタイルを貫いたが、「大学生のレベルは高かった」(高谷)。“先輩”たちはタックル1本の高谷対策を十分に練って、高谷の攻撃をしのいで勝機を見出していた。勝てるからレスリングは好きと言う高谷にとって、2位は1回戦負けと同じく意味をなさない。「タックルだけじゃ勝てない」と悟った高谷は、新たな技を習得し始めた。

■須藤元気新監督がべた惚れした高谷の個性と才能

 それが、”がぶり”だった。背筋力が強い高谷は、相手のタックルをがぶって対処。全日本大学選手権では、相手のタックルを、ことごとくがぶりで殺すディフェンスの良さを見せた。相手が攻め手を欠いたときに、大学2冠王に輝いた66kg級の米満達弘主将と毎日しのぎを削って精度をあげてきたタックルで点を重ねる。

 今大会の決勝戦も山梨学院大4年の奈良部嘉明が意地を見せて第1ピリオドはボールピックアップにもつれたが、第2ピリオドはタックルとがぶりのコンビネーションで5点を奪って完勝した(左写真)

 高谷のポテンシャルには、元プロ格闘家の須藤元気新監督もベタ惚れだ。「周波数がほかの選手と違う」と高谷の才能に驚きを隠せない様子だ。さらに須藤監督は「学生と一緒に合宿を組みたい」と指導にもやる気を出している。「トリックスター」と「タックル王子」のタッグで、今後のレスリング界が大いに盛り上がりそう。

 高谷を一躍有名にした2007年の全日本選手権準優勝から早一年。「うれしかった2位」から一転、今年の2度の2位は「全然うれしくなかった」。2度目の全日本選手権の舞台で、今度こそ1位の座を奪い取れるか―。

(文・撮影=増渕由気子)


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