【特集】国立大選手が連続メダル獲得! 文武両道を貫く群馬大【2008年11月22日】



 東京からJRの在来線に揺られて約2時間。群馬県前橋市に東日本学生リーグ一部所属で唯一の国立大学、群馬大学がある。国立大は、有名私立のようなレスリング特別推薦制度はなく、スカウトは一切なし。国立大学の関門である「センター試験」をパスした真の文武両道のレスラーたちが毎日、練習にしのぎを削っている(右写真=全日本大学選手権で3位1人を含む2人の入賞選手を輩出)

 今年1年間、群馬大はスカウト選手ゼロの状況で快進撃が続いていた。5月の東日本学生リーグ戦では、優勝した山梨学院大に唯一の黒星をつけた。山梨学院大のメンバーは一軍ではなかったから、とも言われるが、二軍でもレスリングで入学してきた選手ばかり。その相手に勝ち星を挙げたことは大きい。

 6月の東日本学生春季新人戦フリースタイル55kg級で岩永竜太(2年)が優勝。10月の全日本大学グレコローマン選手権でも96kg級も山田亨が準優勝を飾り、84kg級の舩山直樹が5位入賞。11月15〜16日に行われた全日本大学選手権でも、正保(しょうほ)佳史が55s級で3位に入り、山田が5位へ。レスリングと勉強の文武両道を成し遂げた“群大レスラー”たち(左下写真:4年生の3人。左から舩山、正保、山田)。有終の美を飾った正保にその秘密を教えてもらった。

■普通科高校にレスリング部がなくても競技続行

 正保は岡山県出身でキッズレスリングをやっていた。中学では陸上部に所属したが、岡山少年レスリングクラブに通い、競技を続けていた。進学した岡山県立倉敷青陵高校にはレスリング部がなく途方に暮れたが、教員にレスリング出身の山懸健二氏(1998年世界学生選手権フリースタイル63kg級3位)が在籍していたのが救いだった。山懸氏はレスリングの情報を正保に与え、正保はたった一人で部室もないレスリング部に所属し、近くの倉敷高のレスリング部に参加して練習を続けた。

 ちょうど岡山インターハイが行われ、地の利を生かして県2位でインターハイに出場。全国の舞台に立った正保は、大学で本格的にレスリングをやりたいと思うようになった。だが、進学先がネックになった。倉敷青陵高校は100パーセント進学高校。毎年、東大にも数人は合格し、正保の友人には旧帝大の九州大学や、関西トップクラスの大阪大学へ進んだ友達も多数。「国立進学」の校風があり、正保もそれを希望していた。

 国立大でレスリング部があるのは東大、群馬大の2大学(他に防衛省所管で防衛大学)。東日本学生リーグ戦の一部リーグに所属しているのは群馬大だけだ。東大が一部リーグに所属していたら「東大を目指していたかもしれない」というほどの学力の持ち主の正保は、早大や青山学院大などには脇目もふらず、群馬大一本に絞って勉強と練習に励んだ。

 的を絞った群馬大教育学部の受験科目は5科目7教科。理科と地理歴史は2科目選択必須だったが、理系で数学V・C、理科も物理と科学を習得した正保にとっては、特に問題はなかった。センター試験では7割の得点をゲット。小論文も日ごろの国語力を生かして突破し、群馬大に現役合格した。

■群馬大でも強くなれる! 私立大に劣らない練習環境

 群馬大は、国立ながら“強くなる環境”を備えている。監督は日体大出身の柳川美麿氏(1998年全日本学生選手権フリースタイル69kg級2位=右写真)。柳川監督は毎日練習に顔を出し、生徒の指導に当たっている。さらに、五輪金メダリストを多数輩出している群馬県は、レスリングが盛んで優秀な指導者が多い。

 土日になると、前橋西高の小林希監督(1990年全日本選手権グレコローマン82kg級王者=元館林高監督で、当時の教え子は大学チャンピオンの松本隆太郎・篤史兄弟や、長島正彦・和幸兄弟など)が高校生を連れて練習に参加し、おおた市の職員の長島正彦さん(2007年全日本選手権フリースタイル74kg級3位)らも自らの練習を兼ねて群馬大を訪れる。

 柳川監督が「東京にもすぐ行けます。強くなりたいヤツは東京の大学へ出げいこも可能です」と話すとおり、頻繁にチームで東京の大学へ練習に出向く。群馬大には、国立大とは思えない豪華なコーチ陣と環境がそろっている。

 また、夏に群馬大のセミナーハウスを借り切り、日体大ほかの強豪大学を招いて行われる「草津合宿」は20年の歴史を刻む。日本トップレベルの大学生と練習する機会を多く設け、学生たちに常にトップの刺激を与えている。こうした環境の中で、正保や山田は育った。柳川監督は「入学当初、技術はあったが力がなかった。それが群馬大で練習を積んだから3番になれたのでは」と勝因を話した。

■来年も”進化する群大”になるために新戦力急募!

 ただ、推薦制度がないため、柳川監督は「現在の部員は8名で、ここから4年生の3人が抜けるわけですから…」と寂しそうに話す。現在の強さを維持するには、新戦力の加入が必要。来年の新入生次第で来年の群馬大の勢いは決まる。

 正保に群馬大受験の秘策を聞いてみると、「特別に何かをしたわけじゃない」とサラリ。だが、この言葉は大きなメッセージを含んでいた。「学校の勉強、1回の宿題、1回の練習、一つ一つを大切にすることです。一つ楽をしてしまうと、次も楽をするようになるから、それぞれ手を抜かないでやることが重要です」。

 ちなみに正保は塾などにも通わず、昼間は学校で勉強し、夕方からは一生懸命レスリングの練習に励んで群馬大に一発合格したそうだ。大学でもそれは同じ。「生徒が1クラス20人くらいで、先生が10人ほどいますので、ほぼマンツーマン状態」(柳川監督)。大学の勉強もとても手を抜ける状況ではない。それでも群馬大の学生は、ほぼ毎日キツイ練習をこなしている(左写真=3位決定戦で闘う正保)

 正保の将来の夢は「教員になり、レスリング部を作って教えること」。公立の普通科高校でレスリングの強豪チームは、全国でもそう多くはない。中学校のレスリング事情も厳しく、クラブチームで続ける以外に方法はない地域がほとんど。正保は「できれば地元(岡山)で中学校の先生になりたいですね」と言う。

 公立の普通課高校や中学校にレスリング部を―。レスリングの不毛地帯に正保が開拓の一歩を踏みしめる!

(文・撮影=増渕由気子)

■お知らせ■
群馬大学では来年の入学、入部希望者を募集しています。群馬大学のレスリング部に関して質問、不明点がありましたらどうぞお気軽に連絡をお願いします。群馬大学でもレスリングは強くなれます!

TEL:027-220−7324(柳川益美部長研究室)
メールアドレス:yyanagaw@med.gunma-ac.jp(柳川監督直通メール)

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