【特集】交番勤務の警察官、菊地憲(警視庁大井警察署)が社会人初タイトル!【2008年11月26日】



 街の安全を守る“お巡りさん”菊地憲(警視庁大井警察署)が11月22日に行われた全国社会人オープン選手権大会フリースタイル60s級で優勝。フリースタイルの最優秀選手に輝いた(右写真)

 秋田商高時代の2003年に全国高校選抜選手権54kg級で優勝。日体大でも4年生の時にレギュラーとして活躍し、日体大の団体戦三冠制覇に大きく貢献した。今年4月に警視庁に入庁し、警察学校の訓練を終えて現在は東京・大井町の警察署で勤務している。

 警視庁といえば、第六機動隊にあるレスリング部は“職業レスラー”を多く抱えたエリートチームだが、菊地はまだ第六機動隊には配属されてない。レスリングより一般職務が本職だ。それでも「またレスリングの第一線に復帰します」との言葉通り、昨年12月の全日本選手権以来、約1年のブランクを物ともせずに社会人オープンでの復帰戦を優勝で飾った。

■日体大ではレギュラーも、個人タイトルには恵まれず

 菊地は日体大でレギュラーを張ったが(左写真=2007年リーグ戦で闘う菊地)、個人タイトルに恵まれなかった。一つ上の学年には、今夏の北京五輪で銅メダルを獲得した湯元健一(現日体大助手)、同学年には2006年世界選手権銅メダルの高塚紀行(日大=現日大コーチ)、一つ下には2007年全日本選抜選手権優勝の大沢茂樹(山梨学院大)が在籍。当時のフリースタイル60s級は、学生レベルが全日本選手権と同じという超激戦区だった。

 菊地は「高塚、大沢にタイトルを全部持っていかれた」と、今でも悔しそうに振り返る。それでも自分の力を信じ続けた。「湯元先輩に練習で勝ったことがありますし、小田(裕之=国士大、2008年全日本選抜選手権2位)にもリーグ戦で勝った。大沢の高校三冠王を阻んだのはボクです」。ハイレベルな同世代とやりあってきたことが菊地の自信に繋がっている。

 学生タイトルをいくつも取り、鳴り物入りで警視庁に入庁した稲葉泰弘(専大卒)や藤本浩平(拓大卒)と同じように、第六機動隊へストレートで入ることはできなかったが、一般職務をこなしながら粛々と菊地はその準備を進めている。

 だからといって署の仕事や警察内のイベントに手を抜くことはしない。大会2日前には、大井町の柔道四署対抗戦があり、菊地は柔道白帯にもかかわらず、署の代表として出場。なんと、黒帯相手に全試合1本勝ちを収めて優勝した。

 次週には100署対抗戦の駅伝大会がある。スポーツ万能な菊地はその大会にも出場する。現在は早朝に駅伝の練習をしてから定時に出勤。勤務後にレスリングの練習をこなすハードな毎日を送る。「学生のときと比べ物にならないほどキツイ」と菊地。レスリングの練習の時間は減ったのにもかかわらず、腕周りはだいぶ太くなったようだ。

■刺激材料は周囲にいる多くの五輪代表選手

 そのキツさを乗り越えられるのは、北京五輪代表の日体大OBの存在が大きい。「湯元先輩が3位に入ったのは、いい意味で悔しいと思いました」(菊地)。次は自分がやってやると思う強気な自分がいた。

 さらに北京五輪に出場した66s級の池松和彦(現福岡大助手)、55s級銀メダリストの松永共広(ALSOK綜合警備保障)は、菊地を大学のトップレベルに引き上げてくれた先輩たちだ。メダリストたちと毎日同じ練習を積んできた自負が菊地にはある。

 今大会はその強気なレスリングが大爆発。1、2回戦はわずか17秒でフォール勝ち。準決勝、決勝も最後はテクニカルフォールで文句なしの優勝で、フリースタイル最優秀選手に選ばれた。

 「ほんとに久々の優勝でうれしい」と話した菊地。一番うれしかったことは、大学の先輩でアテネ五輪銅メダリスト、警視庁の田南部力コーチがセコンドについてくれたことだ。田南部が五輪でメダルを取った2004年、菊地は大学1年生だった。「一番尊敬する先輩です。田南部先輩の試合はビデオにとって、何度も研究しました」と田南部スタイルにあこがれる。警視庁を選んだ理由も田南部コーチがいたからだ。

 社会人オープンで試運転は終わった。12月の全日本選手権で、“現役お巡りさん”菊地の活躍はいかに−。

(文・撮影=増渕由気子(今大会)、本人提供(警察官)


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