【特集】来年の目標は史上初の親子対決…48歳にして健在の元インカレV4、五位塚悟さん【2008年12月3日】



 11月22日に行われた全国社会人オープン選手権の男子フリースタイル66kg級に、48歳の選手が若い選手を退けて準決勝まで進んだ。1985年にフリースタイル68kg級で全日本王者に輝いた五位塚悟さん(山梨・谷村工高教=右写真)。元全日本王者というより、大東大時代に当時史上2人目の全日本学生選手権(インカレ)4連覇を達成した選手として名が通っていた強豪だ。

 1984年ロサンゼルス五輪は鹿児島商工高(現樟南高)時代の同期生の土方政和警視庁監督(前日本協会強化副委員長)に敗れ、1988年ソウル五輪は、62kg級に落として、やはり高校の同期生の栄和人中京女大監督(現日本協会女子強化委員長)らと争った末に、ともにオリンピックの舞台に立つことはできなかった。

 それでもマットを去ることはなかった。全日本選手権には1993年まで出場したあと、間をおいて1997年にも出場して12度の出場。その後も、全日本社会人選手権などで名前を見ることが続き、今もマット上で勇姿が躍動する。

■マットに立ち続けたいために、一度でもマットから離れたくない

 全日本社会人選手権の年齢別部門や、全日本マスターズ選手権ではなく、一般の選手も参加する大会で、である。準決勝(左写真=青が五位塚さん)で闘った土田章博は、自衛隊の23歳の若手選手。普通なら、けがへの恐れもあって闘えるものではない。

 「レスリングは見るだけでは面白くない。体が動く限り、出ますよ」。継続こそが力なり。いったん止めてしまうと、「そこで終わりになってしまうような気がする」という。好きなレスリングから離れたくないがために、止まることなく闘い続けるようだ。

 高校の監督として、体を鈍らせてはならない事情もあった。選手とスパーリングができ、時に選手をたたきつぶすだけの実力を持っていなければ、強い高校生選手は育てられない。現在の高校は創部5年目であり、練習相手になってくれる卒業生も少ないため、五位塚さんがやらなければ、やってくれる人がいない。

 「米満(達弘=韮崎工高〜拓大、今季学生二冠王)や倉谷(修平=韮崎工高〜日体大、今季大学王者)とも、よく練習しました。当時(4年前)は負けませんでしたよ」。五位塚さんが県職員として採用された時(1983年)はレスリングの強豪県ではなかった山梨県が、今や学生王者のみならず、世界を狙える選手が何人も生まれているのは、五位塚さんらが体でお手本を見せてきたからこそだ。

■「上には上がいる」と、体が動く限り引退はなし!

 鹿児島商工高の全盛期を支えた選手でもある。1978年に同高が春夏連覇をした時のメンバーの1人で、インターハイ個人でも、五位塚さんが56kg級、栄中京女大監督が60kg級、土方警視庁監督(旧姓上村)が65kg級で優勝。栄監督が「お互いに絶対に負けたくない一心でやっていた。あの時代の練習があったから、その後の自分がある」と振り返るように、3選手の練習は壮絶なものだったようだ(右写真:ソウル五輪の代表を目指し、栄和人と壮絶な死闘を展開=下が五位塚さん)

 「いま、3人でリーグ戦をやったら、断トツの優勝でしょ?」という質問には、「ハハハハー!」と笑い、「栄はまだ女子選手とスパーリングやっているんじゃないですか?」と答えて、明確な自信を返してくれなかった。だが、自衛隊のバリバリの若手選手と互角近くに闘える実力をもってすれば、結果は火を見るより明らかだろう。

 年齢に勝てないのは事実だ。今年1月の全日本マスターズ選手権では、肩を脱きゅうするけがを負った。「大会の目標が、以前は優勝だったのが、今は3位とか、気持ちの面でも若い時とは違いますよ」と笑うが、けがをしたことで一段と筋力トレーニングに力を入れたというから、マットを去る気持ちは毛頭なさそう。

 「上には上がいますよ。八田(正朗)さん、勝村(靖夫)さん…。世界マスターズ選手権に出ている先輩は多いですよね」と目標の先輩を何人か挙げ、「体が動く限り引退はしません」と言い切る。今年1月、82歳にして全日本マスターズ選手権に出場した米盛勝義さんの記録更新という先の長い目標もあるが、来年の目標は親子対決だという。

■早ければ来年の全日本社会人選手権で親子対決が実現!

 大東大4年生で主将を務めた長男の優選手が来春、社会人になる。教員志望でレスリング活動は続ける予定だという。階級も同じなので、社会人の大会で対決の可能性が出てくる。「1回戦ではぶつかりたくない。かといって、反対のブロックに割り振られては、(自分が)決勝まで残れないでしょう。3回戦くらいで当たるような組み合わせになれば、親子対決を励みに頑張れそうです」と言う。

 正確な記録は残っていないが、親子が全日本レベルの大会で対決した例は聞かない。インカレ4連覇という偉業を達成した選手は、前人未到の、もしかしたら空前絶後となりそうな親子対決の実現に挑戦する。

 栄中京女大監督は「そのエネルギーには敬服する。ソウル五輪代表をめぐる死闘は今でも忘れられない。あれで何倍も強くしてもらった。今でも彼の存在が刺激になります」と、土方警視庁監督も「私たちの世代の誇りです。ボクらにはできないこと。健康なんでしょうね。体が動く限り頑張ってほしい」と、それぞれエールを送る(左写真=48歳にして元気いっぱいの五位塚さん)

 来年1月の全日本マスターズ選手権に出場すれば、第1回大会から8年連続出場という記録になる。今年の大会まで7年連続出場しているのは、五位塚さんを含めて6人。親子対決という目標のほか、こちらの記録更新も注目だ。

(文・撮影=樋口郁夫)


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