【全日本選手権優勝選手】男子フリースタイル55kg級・湯元進一(自衛隊)【2008年12月24日】



 北京オリンピック銀メダリストの松永共広(ALSOK綜合警備保障)が欠場したフリースタイル55s級は、松永の背中を追い続けていた6月の明治乳業杯全日本選抜選手権王者の湯元進一(自衛隊)と9月の大分国体王者の稲葉泰弘(警視庁)との対戦になり、湯元が選抜に続いて優勝した。

 第1ピリオドを稲葉がもぎ取ると、第2ピリオドは湯元がテクニカルフォールで振り出しへ。第3ピリオドはノーポイントで延長戦になり、優先権を生かした湯元が稲葉を確実にテークダウンして全日本初タイトル。来年の世界選手権に王手をかけた。

 北京五輪フリースタイル60s級銅メダリストの湯元健一(日体大助手)の双子の弟。幼少のころから双子そろって活躍してきたが、大学からの成績は健一にリードを奪われていた。健一は大学時代で全日本選手権を制し、世界選手権も経験したが、進一は専門のフリースタイルで学生王者にさえなれず、全日本選手権も優勝できなかった。

 社会人に入っても進一は健一の後塵を拝してしまう。兄は念願の五輪に出場し、銅メダルを獲得。進一も全日本で表彰台を経験したが代表にはなれず。結局、健一のパートナー役で自分の五輪は終わった。「応援はしていたけど、(五輪後)健一といつも間違えられて悔しかった」と振り返った。

 優勝はしたものの、「内容は悪かった」と反省しきりのトーナメントだった。進一の初戦は高校2年生の森下史崇(茨城・霞ヶ浦高)。50s級のインターハイ・国体王者で、今回は減量なしで初戦から動きのよかった森下に、進一は思わぬ苦戦。タックルで先手を打たれ、攻撃が後手に回った末の勝利。自衛隊の和久井始コーチは「チャンピオンだから勝たなければという気持ちが先行してしまい、ガチガチだった」と分析する。

 3回戦で学生二冠王者の守田泰弘(日体大)を迎えると、やっといつもの進一の動きに。わずか1分15秒でフォール勝ちし、全日本選抜王者の貫録で学生王者をねじ伏せた格好。稲葉との決勝戦は、第2ピリオドで稲葉からテクニカルフォールを奪うなど試合を優位に進めた。最後はボールピックアップでの決着になってしまったが、「ロンドン五輪に向けて健一より先にスタートしたぞって言ってやりたい」と進一は胸を張った。これで、ライバル稲葉との今年の対戦成績は2勝1敗と勝ち越しに成功。松永の後継者として存分にアピールした形となった。

 それでも元全日本コーチでもある和久井コーチは「まだ、松永の方が上だね」と辛口採点。だが、「この2人が競い合えば、ロンドン五輪で日本が金メダルが取れる。どちらも世界で通用するタイプだし」とも話し、進一の成長振りに笑みを見せていた。


(取材・文=増渕由気子、撮影=矢吹建夫)


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