【特集】10年目を迎えたトルコの女子レスリング。勝負はこれから2007年3月8日】







 女子レスリングが世界的に広まりを見せて久しい。しかし、イスラム教は女性の肌の露出を認めておらず、女性がレスリングをすることを認めていない国が多い。したがって、世界屈指のレスリング王国のイランや、昨年末にアジア大会が行われたカタールなどでは女子のレスリングを見ることができない。

 3月3〜4日の「ヤシャ・ドク国際大会」が行われたトルコは、国民の大半(統計では99%)がイスラム教徒。そのため、女子レスリングは行われていないと思っている人も多いが、トルコはイスラム国家の中では比較的タブーが少ない国。たとえば、外国人の飲酒は自由だ。

 女子レスリングには、五輪種目に決まる3年も前から取り組み始めており、今回の大会には24選手が参加した
(左写真=ヤシャ・ドク国際大会に参加したトルコの女子選手たち)

 同じ日にスウェーデンで「クリッパン女子国際大会」が開催されており、北欧やロシアほかの東欧、そして大西洋を隔てた米国などは歴史のある同大会に参加。そのため、こちらの大会に参加した外国はブルガリア、エジプト、カザフスタン、モンゴルの4ヶ国とやや寂しかったが、参加した男子フリースタイルの日本チームに、「なぜ女子は参加してくれないの? 私たちは日本を目標にがんばっているのよ。来年はぜひ参加して」(ペルシン・ウルン・コーチ=2002年世界選手権51kg級6位)と訴えるなど、実力アップに余念がない
(右写真=ウルン・コーチ。左は男子フリースタイル全日本チームの和久井始監督)

 現在、同国の女子選手は284選手(シニア78選手、ジュニア・カデット64選手、キッズ142選手)。登録制度がしっかりしているのが、ウルン・コーチは1の位の数字までしっかり教えてくれた。残念ながら、あらゆる世代のメジャー大会(世界選手権、欧州選手権等)では優勝選手を輩出していない。

 シニアでは、一昨年にトルコ・イズミールで行われたユニバーシアードで67kg級の選手が銀メダルを取ったのが最高。世界選手権に限れば、2002年に4位に入ったのが最もいい成績だ。しかし、ジュニアでは昨年の欧州選手権で3位が2人生まれ、カデットでも昨年の欧州選手権で52kg級の選手が2位に食い込むなど、若手選手の底上げができつつある。

 まだ世界的に競技人口の少ない女子だが、メジャー大会での“優勝”となると、そう簡単なことではない。1994年に女子がスタートしている隣国のブルガリアでは、男子が強国であるので女子も急成長するかと思われたが、メジャー大会での優勝となると、9年目となる2002年欧州ジュニア選手権でのスタンカ・ズラテバが初めて。昨年、そのズラテバが欧州選手権と世界選手権でともに同国として初優勝を達成。1人の欧州チャンピオン、世界チャンピオンを輩出するのに実に、13年の歳月がかかっている。

 その時代以上に女子のレベルが高くなっており、スタートしてからの9年間でまだ優勝がないからといって、決して遅れているとは言えないだろう。負ければ悔し涙を流してマットを降りる選手もいるし、「今年は日本で行われる世界合宿に参加したい。日本のレスリングの技術書があれば、送ってほしい」(ウルン・コーチ)と、強くなるための気持ちは十分にある。

 男子のレスリング王国だけに、勢いがつき、コーチに恵まれれば、のし上がってくる可能性は十分。イスラム圏における女子レスリングの発展のためにも、女子レスリングのリーダーである日本は、支援を惜しんではならない。
(左写真=51kg級で、ブルガリア選手を押さえて2、3位に食い込んだトルコ)

(取材・文=樋口郁夫)



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