【特集】試練を乗り越え日本代表奪還へ…男子フリー74kg級・小幡邦彦(ALSOK綜合警備保障)【2007年4月28日】







 全日本チームの常連だった男子フリースタイル74kg級の小幡邦彦(ALSOK綜合警備保障=下写真)が、この冬は例年と違う冬を送った。1月下旬の天皇杯全日本選手権の準決勝で萱森浩輝(新潟・新潟県央工高教)に敗れ、全日本チームの海外遠征にもれてしまったからだ。

 昨年までは毎年冬の遠征に参加し、実力を磨いていた。今年は、同級チャンピオンの長島和幸(クリナップ)ほか、かつての“チームメート”の海外での活躍を遠巻きに眺めていなければならなかった。19歳で全日本を制した逸材は、果たして北京オリンピックに向けてよみがえることができるか。

 全日本選手権を振り返ってもらった。「練習量が足りなかったですね」。その大きな要因は、ドーハ・アジア大会が12月にあった関係で、全日本選手権が1月下旬に開催されたこと。アジア大会から帰国してややクールダウンしたのは当然としても、本来なら練習量を上げ始めるべき時が年末年始で、チーム(山梨学院大)の練習が休みだった。

 個人で練習は積んだが、「やはり練習量が足りず、本当に追い込む練習ができなかった」と言う。「ま、自分が悪いんですよね」。アジア大会に出場した小幡に日程的な不利はあったのは確かで、フリースタイルのアジア大会代表は小島豪臣(66kg級)以外全滅だったことをみても、その影響は感じられる。しかし、グレコローマンの日本代表は全員が勝っていることを考えれば、負けた理由にはなるまい。

 油断といえば、油断だった。99年の国体以来、約7年間、74kg級では負けを知らなかったことで(国体84kg級では黒星あり)、「何とかなる、という気持ちがあった」と振り返る。心のどこかで、「負けてはならない」というプレッシャーもあったという。

■この黒星で本当のチャレンジャーへ

 だが、この負けで「吹っ切れた。本当に挑戦者の気持ちでできると思う」と言う。振り返ってみると、7年間負け知らずとはいえ、「いつもギリギリの試合。負けてもおかしくない試合もあった」。負けたことで弱点がはっきり分かり、今後の練習の課題がはっきりと見えてきたという。

 「田南部さん(力=アテネ五輪フリー55kg級銅メダリスト)も、シドニー五輪のあと、国内で負けているんですよね」(2001年全日本選抜選手権とプレーオフで長尾勇気に連敗、2001年全日本選手権で松永共広に黒星)。五輪選手の心には、知らず知らずのうちに“すき”ができ、どん欲に勝利を目指す気持ちが消えてしまうようだ。

 しかし、全日本チームをはずれてみると、その状況がたまらなく悔しく、あるいは寂しくなる。五輪代表選手のプライドも首をもたげてくる。負けてみて、本当に闘志に火がつき、再びチャンピオンの座を目指して必死になることができる。今の小幡は、まさにそんな状況。悔しさというエネルギーを十分にたくわえ、そのパワーが爆発するか
(右写真:7年ぶりに頂点から滑り落ちた小幡=右から2人目)

 「まず体力を上げなければなりません。世界選手権の代表になるには、自分は5試合で、(チャンピオンの)長島は4試合ですから」。全日本3位の小幡が世界選手権代表決定プレーオフへ出場するには、まず全日本選抜選手権で優勝しなければならない。16選手出場なので、4試合を勝ち抜き、5試合目がプレーオフになる。

■日本代表奪還は過酷な道

 シード位置の関係で、小幡と全日本チャンピオンの長島とは準決勝で当たる(全日本選手権で萱森に負けた小幡が、萱森と別ブロックになるため)。長島が準決勝で負けたとすると、その試合が3試合目で、プレーオフは4試合目で、小幡に比べ1試合少ない状態でプレーオフへ挑むことになる。

 試合数の問題だけでなく、小幡は決勝で強豪と闘い、その後にプレーオフを迎えなければならないのに対し、長島は十分に休けいをとってプレーオフだ。もし1選手でも棄権すれば、長島の試合数が1試合減り、小幡はいっそう不利になる。全日本チャンピオンを逃した選手が世界選手権に出るには、著しく不利なシステム。それを踏まえ、「まず体力です」と言う。

 これは世界選手権でも同じこと。昨年の大会では、午前セッションで準決勝までをやる日程で、選手はこの4時間半で4試合、組み合わせによっては5試合も強いられており、スタミナに難のある選手は、技術的に優れていれも勝ち抜くことができなかった。世界V8のブバイサ・サイキエフ(ロシア=フリースタイル74kg級)が勝ち抜けなかったのも、スタミナが切れていたからというのは明白だ。

 今回の試練は、世界ででも上位へ進出する実力を身につけるために、神様が与えてくれた試練なのだろうか。

 もちろん、萱森へのリベンジなど小幡にはやらねばならないことが多い。「2人(長島、萱森)はタイプが違うから、作戦を変えなければなりません。でも、2人だけじゃないんです。加藤(陽輔=秋田県協会)、高橋(龍太=自衛隊)、みんな強敵です」。初心に帰り、本当のチャレンジャーとして日本代表を目指す小幡の意地の爆発に期待したい
(左写真=全日本合宿で和田貴広コーチから指導を受ける小幡)


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