【特集】前へ出る持ち味全開! 逆転勝ちの連続でアジア王者へ…男子フリー55kg級・齋藤将士【2007年5月10日】








 「マサシ君の顔を見ると、疲れもストレスも吹っ飛ぶわね」。レスリングを長年取材しており、ビシュケクにも来ている女性記者が試合前、口にした言葉だ。この男でも怒ることがあるのだろうか、と思わせるほど、いつもニコニコ顔。とても格闘技の選手とは思えない“癒し系”齋藤将士(警視庁)が、男子フリースタイル55kg級のアジア王者に輝いた。

 アジアの強豪国である韓国、イラン、カザフスタンを連破しての優勝で、どの試合もピリオドスコア0−1から2−1への逆転勝ち。瀬戸際を勝ち抜いての価値ある栄光だ
(右写真=カザフスタンやイランを従えての表彰台)。松永共広(ALSOK綜合警備保障)と田岡秀規(自衛隊)の争いかと思われていた55kg級の北京五輪行きのキップ争いに、堂々と参入した。

 いつもニコニコ顔だが、マットに上がった時は野獣の顔に豹変する。ホイッスル前から相手をじっとにらみつけ、視線をそらさない。試合が始まると、常に攻撃精神が満ちあふれており、ポイントを取られても、弱気の表情が浮かぶことはない。相手が張り手まがいの攻撃をしてくれば、きっちりお返しをする。

 セリクバエフ(カザフスタン)との決勝の第1ピリオドも、開始早々の闘志あふれるタックルを見事に返され、あわやフォール負けというピンチを迎えたが
(左写真)、すぐに気持ちを切り替えて攻撃へ転じた。「自分から攻めて取られたポイントですからね。弱気な気持ちは全くなかったです。後半は絶対に自分のレスリングができると思っていました」。

 ルールが2分3ピリオドに変わってから、後半勝負型では勝てないといわれているが、それもケース・バイ・ケース。第2、3ピリオドで勝負できるスタミナがあれば、それは大きな武器になることを証明した3試合逆転勝利の優勝だった。

 自ら「技術はない」と言う通り、持ち味は粘りであり、気持ちで負けずに前へ前へと攻めるレスリング。試合後の顔には、相手の顔などにぶつかったと思える赤いあざが無数に浮かんでおり、かなり壮絶な闘いだったことがうかがえる。それでも負けずに前へ出る闘志。どんなにすばらしい技術を身につけようとも、この気持ちがなければチャンピオンの座はやってこない。

 逆に言えば、これだけの闘志のある選手なのだから、世界で通じる技術を身につければ、一気に力を伸ばす可能性がある。今回の優勝で、自信というチャンピオンになるために必要なパワーも芽生えたはず。世界で通用する基盤は十分にできたと言っていい
(右写真=優勝を決め、勝利の雄たけびをあげる齋藤)

 6月の明治乳業杯全日本選抜選手権のあとには、元女子レスリング選手だった菅綾子さんとの入籍を控えている。婚約者への最高の贈り物を獲得した形だが、これ以上に最高の贈り物は、オリンピックへのキップだろう。「北京へ連れていきます」。いつも以上に柔和で照れがいっぱいに浮かんだ顔だったが、目は笑っていなかった。

 喜んでいられるのは、この日限り。翌日からは、もう全日本選抜選手権への闘いに突入するだろう。松永共広と田岡秀規らの顔を思い浮かべながら。フリースタイル55kg級に果たして波乱は起きるか。


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