【特集】“シンデレラストーリー”は続いた!…フリースタイル74kg級・萱森浩輝【2007年6月11日】








 フリースタイル60kg級に続く混戦模様を呈したフリースタイル74kg級を制したのは、1月の全日本選手権で小幡邦彦(ALSOK綜合警備保障)のV8を阻んだ新潟・県央工業高校の非常勤講師を務める萱森浩輝(かやもり・こうき)だった。決勝戦、プレーオフと全日本選手権覇者の長島和幸(クリナップ)から連勝し、シニアの国際大会未経験の萱森が今年の世界代表の切符を手に入れた。(右・下写真ともプレーオフで闘う萱森=青)

 1月の全日本選手権で小幡を倒したシンデレラストーリーには続きがあった。その時は殊勲を挙げたものの2位となったことで、「五輪を語れるレベルじゃない」と天狗にならず、ひたすら足元を固める練習をこなした。全日本選手権で優勝できなかったのは、自分の勘違いで、リードしているにもかかわらず無理にタックルに行ったところを長島に返されたから。「タックル返しをもらないように対策は積んできました」としっかり悪いところは修整してきた。

 しかし、萱森の第一目標は優勝でも長島に勝つことでもなかった。「同期の加藤陽輔に6連敗くらいしているので、決勝よりもまずは加藤に勝つことを考えていました」。準決勝で激突した加藤戦は予想どおりフルラウンドにもつれたが、最後はクリンチでものにした。そして決勝戦、プレーオフと持ち前のやわらかいレスリングでものにした。

 学生時代は無冠。「日本代表の(自分の姿を)想像できたました?」の問いには「できなかったですね」と照れ笑い。ただ、全日本王者になる伏線はあった。それは萱森が日体大時代に住んでいた寮の部屋についてのエピソードだ。萱森に割り当てられた部屋は、笹本睦、池松和彦、松永共広と“チャンピオン”を毎年輩出している部屋だったのだ。

 「学生時代、自分が無冠に終わってその伝統を途切れさせてしまった」と以前、申し訳なさそうに話していた萱森だが、今回日本代表に輝き伝統を継げたことで「ホッとした」と笑顔を見せた。

 「今日はコイントスの運もよかった」と巡ってきたチャンスを確実にものにした。海外の実績はほぼないが、この男に、日本フリースタイル74kg級の五輪出場枠獲得が託された。全日本男子合宿の名物“100日合宿”(6月18日から9月まで実施予定)にも「所属の学校が特別待遇を許してくれるなら、ぜひ参加したい」と意欲を見せた萱森のシンデレラストーリーはまだまだ続く。

(文=増渕由気子、撮影=矢吹建夫)


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