【特集】早大は“佑ちゃん”だけじゃない! 文武両道で頂点目指すフリースタイル55kg級・藤元洋平【2007年6月28日】






 いまスポーツ界で最も熱い大学といえば、ハンカチ王子こと斎藤佑樹投手の活躍に沸く早大だろう。さわやかなルックスとルーキーとは思えないピッチングで古豪・早大野球部を33年ぶりに日本一へ導き、MVPにまで輝いた。“難関私立校”の早大に在籍しながら、この快挙をやってのければ、注目を浴びるのは当然のことかもしれない。

 では早大のレスリング部に、佑ちゃんのようにルックスと実力も兼ね備えたレスラーはいないのだろうか…。そう思って、早大の練習場にお邪魔してみたところ、フリースタイル55kg級の藤元洋平が目に飛び込んできた。

 ルックスはジャニーズ事務所のアイドルグループ「嵐」のメンバーである二宮和也似。レスリングのイメージとはかけ離れたさわやか、かつアンニュイな表情。見た目からはレスリング選手であることが想像できない。だが、藤元は6月中旬の東日本学生春季新人戦で優勝し、最優秀選手賞に輝いた学生界のホープ。2年生ながら「インカレで勝てる力がある」と太田拓弥コーチも力説する。レスリングセンス、そしてルックスもイチオシの藤元洋平を紹介したい
(下写真は、いずれも6月の東日本学生春季新人戦で闘う藤元=青)

■理想のレスリングは高校の先輩・池松和彦

 藤元は典型的な転勤族の家庭で育った。熊本で生まれ、千葉、宮崎と移り住んだ。レスリングは3つ上の兄・愼平(ことし3月、早大卒)の影響で始め、中学時代は近くの宮崎工業高校に出げいこ。高校はアテネ五輪フリースタイル66kg級5位の池松和彦(現K−POWERS)の母校、福岡・三井高校に通った。 「アテネ五輪の時の池松さんのレスリングが一番理想です」と、先輩の池松は尊敬する選手だ。

 身長167cmと、55kg級では大型で手足が長く、身体的アドバンテージを生かした遠い距離からのタックルは大学トップクラスと言っていい。“攻めて攻めて攻めまくる”をモットーに、日々練習に励んでいる。

 レスリング選手として大成したい気持ちは十分にあるが、一方で「レスリング漬けにはなりたくない」という信念を持っている。藤元の場合、練習場は高田馬場、寮は東伏見、大学キャンパスは所沢と離ればなれ。練習場と寮と大学が同じ敷地内にある大学と比較すると、一見不便そうに思えるが、藤元は「レスリング以外のこともできるし、最高の環境です」と胸を張る。

■モットーは文武両道 “大学生活”も謳歌

 高校生活は全寮制だった。生活はレスリングを中心に回っていたが、藤元は勉強にも手を抜かなかった。「勉強しろとは周りから言われませんでしたけど、レスリングだけやっていてはダメと自分で悟りました」。レスリングと勉強。メリハリをつけてこなした結果、通信簿の評定平均はなんと4・9。 レスリングの最高成績はインターハイ2位で、全国王者はなかったものの、文武両道を貫き、文武両道をうたう早大に合格した。

 レスリング以外も大切にする生活スタイルは今も変わらない。「せっかく早大生なんだから、いろんなことをしないと損」と、学業に長けた学生と話し、寮ではサッカー部やアイスホッケー部など他部の選手と交流を図る。多くの人たちと交わることで人間として厚みを増すことを重要視している。

 また、「レスリング部の人だと見た目で分かるような格好はしません」と、スエットやジャージで授業に行くことはしない。「ふだんは一般学生の中に埋もれたいです」と一生に一度しか経験できない青春時代を謳歌している。

■2年で学生の頂点へ 尊敬する池松先輩越えへ

 だからといって、レスリングが中途半端になることはない。太田拓弥コーチは「基本的にまじめ。練習もしっかりやっている」と、藤元のレスリングに対する姿勢に感心する。マットに上がったら、“レスラー”としてのスイッチがオンになるのだ。

 高校は2位や3位だらけで無冠だったが、大学2年の今年からリーグ戦のレギュラーとしてフル出場。太田コーチの「リーグ戦は選手が伸びるきっかけになる」との言葉どおり、4月のJOC杯ジュニアオリンピックでは不覚を取って3位に沈んだのがウソのように、6月の新人戦では危なげなく優勝した
(左写真)

 「新人戦優勝や最優秀選手賞獲得よりうれしかったことは、全日本選手権へのキップが獲れたことです」。本当は4月のJOC杯ジュニアオリンピックで優勝して獲得するはずだった全日本選手権の出場権。約2ヶ月遅れになったが、その“落とし前”はつけた。そして、次の目標は8月21〜24日に東京で行われる全日本学生選手権(インカレ)だ。本人は「今だとベスト8の力」と冷静に自己分析する。入賞、そして優勝レベルに持っていくには、あと2ヶ月で一皮むける必要がある。

 昨年の覇者で全日本選手権でも3位入賞の経験がある稲葉泰弘(専大)、6月の全日本選抜選手権で優勝した松永共広(ALSOK綜合警備保障)と好試合を繰り広げた富田和秀(大東大)、そしてその松永と毎日練習を積んでいる日体大の富岡直希や石山雄平が現在の4強といったところか。この4強のが城を崩すことが、藤元にとって正念場となりそうだ。

 尊敬する選手である池松も、高校時代は全国大会2位が最高(国体)。大学2年で新人戦を制し、そこから昇り竜のように全日本トップまで駆け上がった。「高校無冠〜大学2年生の新人戦で優勝…」。ここまでは奇しくも尊敬する池松とほぼ同じ戦績をたどっている。

 池松は、大学2年生の時のインカレは63kg級で2位だった。藤元が今年のインカレで優勝し、“池松越え”を果たすのか!? 「僕はこれからの選手です」と言う藤元が、2007年の夏、学生レスリング界に“洋ちゃん旋風”を巻き起こすか?

(文・撮影=増渕由気子)


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