【特集】五輪銅メダリストの闘う魂は健在!…男子フリー60kg級・井上謙二【2007年7月7日】







 アテネ五輪男子フリースタイル60kg級銅メダリスト、井上謙二(自衛隊=
左写真)。故障個所のオーバーホールを経て昨年末に戦線に復帰。ことし1月の天皇杯全日本選手権で2位。そして3月のヤシャ・ドク国際大会(トルコ)では全日本王者の湯元健一(現日体大助手)を破り、順調に力を戻して五輪連続出場の可能性が見えてきた。

 しかし6月の明治乳業杯全日本選抜選手権では、2004年全日本選手権で勝っている大沢茂樹(山梨学院大)に準決勝で1−2(1-0=2:02,0-5,0-1)と逆転負け。日本代表の座を逃した。この階級の日本代表として世界選手権に出場するのは、井上が3月に破った湯元。メダルを取れば北京五輪の代表に内定する。井上に限らず、各階級の2番手以下の選手にとっては、気が気でない日が続く。

 井上は6月18日からの全日本合宿にも参加し、その後も自衛隊で練習を重ねている。「自分のできることをやるだけです。どうなってもいいように、準備しておくだけです」と、自分に言い聞かせるように今の気持ちを話してくれた。

■モチベーションが下がる時もあるが…

 秋以降に考えられるケースは3つ。(1)湯元がメダルを取る ⇒ 五輪代表に内定、(2)湯元がメダルは逃したものの五輪出場資格を取る、(3)湯元が五輪出場資格を逃す。

 (2)(3)の場合は、北京五輪を目指した闘いが続くが、(1)の場合はこの階級での北京への道が閉ざされてしまう。昨年の代表(高塚紀行=日大)が銅メダルを取った階級であり、激戦を勝ち抜いた日本代表だけに、その可能性は他の階級よりは高いだろう。そんな状況でモチベーションは上がるものなのか。「日によって違いますね。時には気持ちが下がってしまう日がある」という。

 気持ちが下がる時には、「一生懸命に練習しても、湯元がメダルを取ったら、意味がなくなってしまう」という気持ちがもたげてくるものなのか。この問いには、「それはないです」と、きっぱり、そして力強く答えた。この問いに先立つ「湯元がメダルを取ったら、階級を上げる?」などといった質問には、「……。まだ考えていません」と、仮定の質問には答えられないといった表情が続いたが、この答の時は一転して語気が強まった。五輪メダリストの闘う魂は健在だ。

 時間が経っているが、全日本選抜選手権のことを振り返ってもらった
(右写真=大沢茂樹と闘う井上)。「コンディションはよかったけど、自分のダメなところばかりが出た。力みすぎて体が動かなかった」。その力みは、「勝つことを意識しすぎたことからきた」と分析する。

■マットに上がれば常に全力で練習

 3月に全日本王者の湯元を下しているとはいえ、「あの時はあの時。大事な時に勝たなければならないんです」と、決勝に残れなかった自分の力不足を口にし、負けた相手の大沢については「若いし、力を伸ばしていますね。自分のいいところを伸ばしている」とその成長を認める。

 しかし、昨年世界3位の高塚が初戦敗退だった事実をして、「勝負の世界は何が起こるか分からない。相性の問題もあるし」という気持ちを強くしたようだ。湯元が世界選手権でメダルを取る確証はない。北京への闘いは秋以降も続くことを想定し、練習を続けるだけ。気合を入れた練習が続く。

 幸い、東京・国立スポーツ科学センター(JISS)で日本代表が100日合宿をやっている関係で、湯元もよく自衛隊に練習に来ることになった。自衛隊の選手が全日本合宿に加わることも多く、湯元と手合わせする機会が多い
(左写真:全日本合宿に参加する井上と湯元=後方右)。「打倒湯元」の気持ちが萎えることはなさそうだ。

 20年近くも慣れ親しみ、喜びも辛さも経験してきたマットに上がれば、嫌でも闘志が沸いてくる。「闘う男の本能?」という問いには、「そんなカッコいいものじゃないです」と苦笑いしたが、五輪銅メダリストの目は死んでいない。

(文=樋口郁夫)


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