【特集】全日本合宿初参加、フリー55kg級の富岡直希(日体大)は「ただいま就職活動中!」【2007年7月22日】







 世界選手権を見据えた全日本チームの強化合宿が7月11〜18日、長野・菅平で行われた。富山英明強化委員長が「世界選手権前の最後の追い込み」と語るように徹底的に体をいじめ抜くメニューを組んだ。

 17日には広大なダボス高原での朝練習が報道陣に公開され、まず1周約1kmの高原を2周するランニングが行われた。報道陣が「トップでゴールするのは、何kg級の代表選手か」と熱視線を送る中、ずば抜けた脚力を披露したのは日体大の学生選手、フリースタイル55kg級の富岡直希
(左写真)だった。スタート直後から2位との差をぐんぐん広げる。報道陣の目は「あの選手は誰?」と、無名の選手に釘付けだった。

■世界代表のスパーリング相手として合宿に初参加

 富岡の明治乳業杯全日本選抜選手権の成績はベスト8。だが、フリースタイル55kg級日本代表の松永共広(ALSOK綜合警備保障)のスパーリングパートナーとして合宿に初参加できた。選手なら誰でもあこがれる全日本合宿。富岡も「ずっと参加してみたかった」と喜びを隠せない様子だった。

 合宿が組まれた長野は、奇しくも富岡の地元だ。練習に母校・上田西高校の学生たちも参加したことで、「後輩の前で無様な姿は見せられない」と気合も入り、初参加者として尻込みすることはなかった
(右写真=日体大ではもちろん、全日本の合宿で一番の俊足)

■ズバ抜けた身体能力の裏に落とし穴

 上田西高といえば、熱血指導者として名高い井出真一監督率いる強豪チーム。近年では両スタイルの55kg級で全日本王者となった平井進悟(ALSOK綜合警備保障)、フリースタイル74kg級で上位進出の常連、高橋龍太(自衛隊)などを輩出している。富岡はその井出監督が「オレの傑作選手」と、満を持して日体大に送り込んだ選手
(左写真=井出イズムを受け継ぐ上田西高トリオ。左から富岡、平井、高橋)。日体大でもランニングは常に一番という持久力を持ち、最軽量級の選手ながらベンチプレス100kg、ハイクリーンが115kgの数字を出してしまう。

 ランニングとウエイトトレーニングを、ともに“得意”という選手は珍しく、身体能力は抜群。その能力は日体大はおろか全日本クラスでもトップクラスということを、この合宿で証明した。

 富岡は現在、日体大のフリースタイル主将。5月のリーグ戦では“切り込み隊長”として活躍した。相手の動きを止めてからの攻撃はピカイチで、ずば抜けた身体能力を生かしたがぶり返しは圧巻だ。しかし、持っているタイトルは2年の春に獲得した新人戦優勝のみ。昨年の全日本学生選手権(インカレ)は、決勝で稲葉泰弘(専大)に敗れた。ナショナルチームの選手をもしのぐ持久力、体力、パワーを兼ね備える富岡だが、稲葉とは分が悪く、大学では1度しか勝ったことがない。

 富岡に足りないものはレスリングの技術だ。「いい形でタックルに入っても、返されてバックを取られることが多い」――。昨年のインカレ決勝もそうだった。「周囲からも『それだけ身体能力が高いのに、なぜ負けるの?』とよく言われます(笑)」と、自分の弱点は分かっている。

 しかし、今回の合宿に参加したことでその課題は解消されそうだ。「全日本レベルの選手は、ミスしてもうまくつなげたりして、ポイントを取る力が違いました」。実際に全日本チームの選手とスパーリングをして、その技術を体感。たった1週間だったが、富岡の“レスリング偏差値”はかなり向上したようだ。

■インカレで“就職活動”します

 富岡は大学4年生。5月のリーグ戦では、一番大事な山梨学院大戦で黒星を喫し、不本意な成績を残してしまった
(右写真=リーグ戦で闘う富岡。がぶったら直希タイムの始まりだ)。そのリベンジとばかりに「インカレは絶対獲る!」とラストチャンスに意気込んでいるが、その気合はインカレという一大会に固執したビジョンではない。卒業後もレスリングを続けるためだ。

 「競技を続けることは決めました。ただ進路は未定です。できれば、このまま日体大で練習を続けて、オリンピックや世界選手権を目指したい」。当面の目標は“レスリングプロ”になるためのスポンサーを見つけること。そのためにも学生最高峰のタイトル、インカレは手中に収めたいところ。インカレまであと1カ月。富岡の“就職活動”はこの夏が勝負どころだ。

(文・撮影=増渕由気子)



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