【特集】目標は「3位以内ではなく、てっぺん」−。世界選手権初出場の鶴巻宰(自衛隊)【2007年7月24日】







 世界選手権まであと2ヶ月。ことしは5人の選手が初参加するが、その中で、富山英明強化委員長がイチオシする選手が、今年3月に国士大を卒業し、4月に自衛隊に入隊したグレコローマン74kg級の鶴巻宰
(自衛隊=左写真)だ。

 4年前の大学入学直後の明治乳業杯全日本選抜選手権で、絶対王者だったシドニー五輪銀メダリストの永田克彦に0−3の接戦を展開し、いきなり注目を集めた。グレコローマンのナショナルチームの年齢が年々高齢化している中、2004年12月の天皇杯全日本選手権では、グレコローマンでは24年ぶりに20歳の全日本王者に輝き、翌年5月のアジア選手権(中国・武漢)では銅メダルを獲得。グレコローマン界に風穴を空けた選手でもある。

 全日本王者になってから2年半。昨夏は、世界のトップになるための経験を積むためにインカレ(全日本学生選手権)王者という名誉も捨てた。学生最高峰の大会を棄権してまでナショルチームの欧州遠征に参加した。すべては世界王者になるため…。そんな鶴巻の競技哲学をほんの少し紹介したい。(聞き手・撮影=増渕由気子)


■1年ぶりの海外遠征 パワー増強でトップを目指す

 ――菅平の全日本合宿、お疲れ様でした
(右写真=菅平合宿の名物トレーニング、馬追いでは先頭を切って走った鶴巻)。世界選手権まであと2ヶ月ですがこの夏のプランを教えてください。

 
鶴巻 この合宿が終わると約1年ぶりとなる海外遠征(ブルガリア)があります。世界のトップの選手たちと試合ができると思うので、そこで試合感を身につけたいです。

 ――去年の夏にナショナルチームと海外遠征に行って以来、けがなどもあって国内で調整してきたと思いますが、1年前とは別人になりましたか?

 鶴巻 別人になろうかな、変わらなきゃなって思っています。

 ――どんなところを変えたいですか

 鶴巻 「レスリングに力強さがない」ってみんなに言われるんですよね。柔らかさだけでやっている部分があるので、それを改善したいなと思います。

 ――松本慎吾選手(84kg級)のような瞬発的な力強さを身につけたいのですね?

 鶴巻 そうです。

 ――松本選手といえば豪快なリフト技が得意ですが、鶴巻選手も得意ですよね。

 鶴巻 アテネ五輪後の大きなルール改正後、グレコローマンは何度も小さな修正がありました。以前のクロスボディでしたらリフト技をかけやすかったんですけど、最新のルールだと、ちょっと上げづらいです。汗をかいてきたら特に。

 ――鶴巻選手の試合で印象的なものとして、2006年6月の全日本選抜選手権の決勝戦、5点となるリフト技で菅太一選手をぶん投げたことがあります
(左写真)

 鶴巻 あれはうまくはまったのもありますが、2006年のリフトしやすかったルールの時です。今のクロスボディのルールは、無理にリフトに行くと逆に立たれたりするんで、リフト技は勝負どころのみ使い、ほかはローリングなどで攻める予定です。

 ――グレコローマンをやっている以上、理想としてはアレクサンダー・カレリン(ロシア=五輪3度を含めて世界一12度)のようなスタイルを目指しますよね?

 鶴巻 そうですね。魅せるレスリングをしたいですね。でもまずは勝てるレスリングができてからです。

 ――勝つためにはディフェンス力も必要ですがその完成度は?

 鶴巻 6月の全日本選抜選手権ではディフェンスがうまく行ったんですが、いまだに足がそろってしまったり、逆の方に腰が来ていたりとポカすることがあるので、70点といったところです。

 ――富山英明強化委員長も初出場の鶴巻選手に期待しているようですが(公開練習で、報道陣に鶴巻をフリー軽量級に次いでの有望株と紹介)

 鶴巻 期待に応えられるようにがんばります。

■「目標は世界3位以内じゃありません」

 ――世界選手権で銅メダルを獲れば五輪代表内定です。3位以内という気持ちは強いですよね?

 鶴巻 3位以内と思っていると、その手前で負けるんです。世界選手権出場を目標にしていると、国内で負けると思っています。人間は目標のひとつ手前で終わるんですよ。常にてっぺん目指してないと、上にいけないんです。

 ――いやぁ、優勝する人のコメントですね。

 鶴巻 目標を世界3位に置いていると、その位置にいくための練習しかしないじゃないですか。てっぺん目指していれば、頂点を目指ざすための練習ができる。そうすれば2位や3位には自然になれるんですよ
(右写真=急勾配の坂を一気にかけ上がる鶴巻)

 ――では世界選手権での目標をズバリ教えてください

 鶴巻 ひとつでも多くという気持ちではなくて、やるからにはてっぺん目指します。

 ――鶴巻選手の出身である山形県で世界の頂点に立ったスポーツ選手にスピードスケートの五輪選手、加藤条治選手(2004年世界距離別大会)がいますが、県の表彰式などで一緒になったりなど交友関係はあるんですか?

 鶴巻 まったくないです。格上の選手ですよ。

――では今回の世界選手権で活躍して、その存在に追いつきたいなと。

 鶴巻 いや、追い抜きたいです!


 多くの選手がメダルの色を問わず「3位以内が目標」と公言する中、鶴巻は初出場ながら優勝する意気込みを見せている。

 7月23日にブルガリアへ1年ぶりの海外遠征に出発した。手足が長く身体的な長所が多いことから「外人には鶴巻のスタイルがはまる」と言われてきたが、その下馬評どおりの結果を出すことができるか。鶴巻の遠征結果が楽しみだ。



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