【特集】すごい闘争心の韓国女子選手! いずれは日本のライバルに!【2007年8月8日】

報告・写真提供=栄和人(中京女大監督)





 7月31日から8月5日まで、中京女大、ALSOK綜合警備保障、ワァークスジャパン、K−POWERS、至学館高校など選手27人、役員5人が韓国のソウル体育大学に遠征し、同大学の選手のほか韓国のナショナルチームの選手と合同合宿をしてきました。

 日程は、2日目は午前に体力づくりと技術練習、午後にスパーリングを中心としたマットワーク。3日目は午前のみの練習で、午後は38度線の見学。4日目は前々日と同じ1日2度練習、5日目は午前のみの練習で、午後は最後の観光でした。
(4面マットの練習場で60人を超える選手が練習)

 ソウル体育大学は、男子では強豪を数多く輩出している最強の大学です。女子はまだ歴史が浅く、男子ほどの選手は生まれていません。韓国全体でもまだ世界チャンピオンは生まれておらず、2005年のアジア選手権59kg級で優勝者を輩出し、昨年のアジア大会48kg級で2位に入る選手が出たことが目立つ程度です。しかし、昨年のアジア・ジュニア選手権では優勝選手が誕生し、急速に発展しています。

 この合宿には33人もの選手が集まりました。韓国の女子レスリングも間違いなく裾野が広がっており、いずれはアジアの強烈なライバルになる可能性を秘めています。

 ナショナルチームのコーチをやっているのは、ソウル体育大学出身の李正根さんで、私の現役時代のライバルだった選手です。1986年のアジア大会(ソウル)の決勝では私が敗れ、翌87年の世界選手権(フランス・クレルモンフェラン)の3位決定戦は私が勝ちました。日韓合同練習で何度も練習した仲です。現在、2人とも女子の指導に携わっているというのも不思議な縁です。

■日本の五輪代表選手との練習を求めて順番待ち

 ソウル体育大学は2年前に来日したことがあり、そのときは中京女大がお世話しました。今回は私たちが渡韓しお世話を受けたわけですが、熱烈練習の歓迎という状況でした。

 ソウルに着いた日の午後からマットワークの練習でしたが、どの選手も日本選手相手に積極的に練習を求めてきました。3人の五輪選手(伊調千春、伊調馨、吉田沙保里)には、「次は私」「その次は私」といった感じで順番待ちができるほどで、2時間のスパーリングの間に7〜8本(1本=2分3ピリオド)もやらざるをえない状況でした。

 韓国の女子選手は、体力、技術ともまだ日本の敵ではないと思います。マット運動も満足にできない選手も多くいて、柔道あがりの選手であってもレスリングの体力はまだ不足していました。しかし、強くなりたいという意気込みはすばらしいものがありました。

 何度押さえ込まれてもひるむことなく、立ち上がって向かってきます。そんな激しい内容の練習が続きました。吉田沙保里選手は「監督からのプレゼントの遠征ということで、半分は観光気分で向かいましたけど、最初の練習でその気持ちが吹き飛びました。終わってみると、世界選手権前の絶好の練習になりました」と、練習のすごさを話しています。
(左写真=名古屋国際空港で出発を待つ。この時は観光気分?)

■南北38度線の見学で貴重な社会勉強

 かつて男子の日韓関係が、今の女子の状況でした。韓国の世界選手権の代表選手が日本に修業に来ても、日本代表選手はおろか、学生王者にもいかない選手にも簡単にやられた時代がありました。それにもめげずに必死の練習を続け、やがて日本を追い越し、アジア有数の強国に成長しました。

 女子も、安閑としていては、5年後、10年後には追い越されてしまうでしょう。今回遠征に同行した大学生や高校生は、韓国選手のすさまじい闘争心を目の当たりにして、何か感じたことと思います。その意味では、今後につながる経験をさせることができたと思います。

 いい経験といえば、練習を離れた部分でも、韓国と北朝鮮の国境「38度線」の見学といういい社会勉強ができたと思います。ここには北朝鮮が韓国への奇襲攻撃を目的として秘かに掘り続けていた地下トンネルがあり、1978年に韓国に発見されて中止。今では観光客向けに開放されています。

 トロッコ列車に乗って地下深くまでもぐり、南北対立の生々しさを実感してきました。平和の時代に生まれ育った高校生や大学生(私も戦後の世代ですが…)は何を感じたでしょうか。
(右写真=38度線で記念撮影)

 レスリングの練習や試合で遠征しても、時間を見つけてその地の歴史や文化に関心を持ち、接することは大切なことだと思います。学校の授業では学ぶことのできない貴重な経験を積むことが、人間としての成長につながり、その後の人生に大きな役に立つと思います。

■日本選手相手にはない緊張感を経験

 世界選手権の代表選手(前記3人のほか、井上佳子選手)には、世界選手権前に外国選手と闘う緊張感を感じさせることができ、いい練習になりました。レベルの差がはあっても、外国選手との練習には、いつも手合わせしている後輩との練習にはない緊張感が出てきます。この緊張感の中で自分の技をきちんとかけられるようになることが大事なのです。

 このあと、22日から新潟・十日町で全日本合宿を行い、9月8日から東京で最後の調整合宿に入ります。自分の持ち技を再確認し、試合で確実に出せるための練習をさせて世界選手権へ臨みたいと思います。いよいよ最後の追い込みです。

 なお、遠征には日本テレビの長島プロデューサーほかが同行し、練習や観光のもようを撮影していただきました。世界選手権の中継時に放送してくださるようです。発展する韓国の女子レスリングの端緒を、ぜひとも目にしてください。


練習のリーダーは伊調千春選手(右)。負傷も癒えて元気に参加。 練習が終われば日韓交流。
通訳は国士大に留学経年のあるチェ・ワノさん。伊調馨選手のこの笑顔!

日本と韓国の世界選手権代表選手。決勝で対戦することが目標! 総勢60選手を超える選手たち。韓国の女子の裾野は間違いなく広まっている。 日本選手の体力は韓国も関心のマト。体力測定を受ける。

韓国といえば焼肉。本場の味を堪能する選手たち。 コーチたち。杉山三郎顧問(左から2人目)は早くから国際交流を推進した立役者。 全日程終了。安堵の表情でカメラにおさまる選手たち。



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