【特集】世界選手権へかける(1)…男子グレコローマン84kg級・松本慎吾(一宮運輸)【2007年8月26日】








 北京オリンピックの出場権をかける9月の世界選手権(17〜23日、アゼルバイジャン・バクー)へ向け、日本のエース、グレコローマン84kg級の松本慎吾(一宮運輸=
左写真)の表情が明るい。昨年も、強気の言動でチームを引っ張ってきた。しかし、8月のハンガリー合宿で背中を痛めてしまい、世界選手権まで追い込んだ練習ができず、から元気の部分が大きかった。

 その負傷も年明けには問題ないほどに回復し、1月の全日本選手権では男子歴代2位タイとなる8連覇を達成。北京オリンピックへのロードが再スタートした。「言い訳になってしまうが、去年はけがで練習を積めなかったことが、最後(ドーハ・アジア大会)まで響いた」とのこと。練習を十分に積めた今年は、昨年あった不安要素は存在しない。

■ニコラ・ペトロフ国際大会で世界3位を破る!

 6月に世界選手権の日本代表を決めたあと、7月に入ると60kg級の笹本睦(ALSOK綜合警備保障)とともにグルジアへ遠征。約2週間の合宿練習ののち、ブルガリアへ移動して全日本チームに合流し、合宿と大会出場。その後、チームと分かれてポーランドで練習を積んできた。

 「3ヶ国の合宿で、ヨーロッパのほとんどの国の選手とやってきました」。グルジア合宿にはウズベキスタン、ブルガリア合宿にはフランス、イタリア、スペイン、韓国、エジプト、ヨルダン、ポーランド合宿はチェコ、ウクライナ、ギリシャなどが参加していたそうで、手合わせした国の数としては、これまでに最高だろう。

 その成果は遠征の途中、8月4日にブルガリア・ソフィアで行われた「ニコラ・ペトロフ国際大会」で表れた。2回戦で昨年世界3位、今年のアジア王者のサマン・タフマセビ(イラン)を撃破
(右写真)。豪快な俵返しを決める試合もあり、強さに磨きがかかった。

 この大会では準決勝でメロニン・ヌモンビ(フランス)に敗れてしまい、通算の対戦成績が3連敗となってしまうマイナスもあった。しかし、この選手とは合宿でも練習している相手であり、実力差は感じていない。「リフトのタイミングが合わないだけ。次に闘うことになっても、苦手意識とかは持たない」そうで、周囲が思うほどのマイナスではないそうだ。

■ライバルは世界王者を含めて4人に絞られた!

 こうした経験をふまえ、世界選手権の壁として考えるのは、世界チャンピオンのモハマド・アブドエル・ファタ(エジプト)、世界2位のナズミ・アブルカ(トルコ)、アテネ五輪金メダリストのアレクセイ・ミシン(ロシア)、アテネ五輪2位で今年休養からカムバックしてきたアラ・アブラハミアン(スウェーデン)の4人。そして、自らもこの先頭グループにいる自負はある。

 昨年の世界選手権で惜敗したバドリ・カサイア(グルジア)や、ドーハ・アジア大会で惜敗している金正變(キム・インサブ=韓国)も、決してあなどれない。しかしカサイアとはグルジア合宿で何度も手合わせし、負ける相手ではないという感触がある。金正變は「自滅で負けた相手。練習量の不足が影響した」と、体調的に不調だった昨年の対戦結果は本当の実力差を表していないと考えている。

 アテネ五輪から3年連続で一けたの順位を確保している事実(7位、8位、9位)とともに、世界チャンピオンを射程距離におく先頭グループにいることは間違いない。アテネ五輪前は、五輪V2のハムザ・イェルリカヤ(トルコ)と互角近い闘いを演じた事実をもっての期待だった。今回は3年連続10位以内という実績に基づく期待。今回の方が、より強い期待を感じるのは言うまでもない。

 もっとも、「3年連続10位以内」という事実は今の松本には何の満足感も与えていない。「メダルを取らなければ」−。考えていることは、この思いだけ。日本のエースが一気に北京五輪の代表権奪取を狙う。

(文=樋口郁夫)



《iモード=前ページへ戻る》

《前ページに戻る》