【特集】世界選手権へかける(4)…男子フリースタイル60kg級・湯元健一(日体大助手)【2007年8月29日】








昨年の世界選手権で銅メダルを取った高塚紀行(日大)に相性がいいことから、つけられた“肩書き”が「世界3位より強い男」。男子フリースタイル60kg級の湯元健一(日体大助手=
左写真)のことである。悪い気はしないだろうが、世界選手権で2位以上になってこそ、もらいたい肩書きでもある。今年1月の全日本選手権で激戦を勝ち抜いて優勝したあとも、口にしたのは「本当に(世界選手権で)勝って、そう言われたい」だった。

 6月に今年の世界選手権の代表権を勝ち取り、その肩書きが本当だったかどうかの答えが出る。7月下旬からの欧州遠征では、「ベログラゾフ国際大会」(ロシア)でロシア2選手を破るなどして3位に入賞。シニアの大会で初めてメダルを手にし、調子は上昇中だ。

■技の精度をアップを目指して74kg級選手と積極的に練習

 遠征では、「タックルに入ってから、切られたり返されたりすることがなくなった」と成果を話す一方、負けた試合は1失点で抑えなければならないところを3失点するなど「ミスが出た」と反省する。しかし十分に直せるミスであり、まずまずのメンバーが集まる大会で3位に入賞できた自信は大きい。

 続くブルガリアでの大会は、腰の状態が思わしくなく、大事をとって出場しなかった。その判断がよく、帰国してからの練習に支障はなく、現在は問題がない状態だという。

 帰国後に参加した日体大や早大などとの合宿(群馬・草津)では、1階級下の日本代表の松永共広(ALSOK綜合警備保障)のほか、全日本選抜選手権で高塚紀行を破った清水聖志人(クリナップ)らとの練習を積み、かなりハイレベルの練習を行うことができたが、意識して練習したのは階級の上の選手との練習だった。

 1階級上、さらに74kg級の選手とも積極的に練習した。同階級や上下の階級に選手がいないわけではないのに、なぜか。それは「技の精度をつけるため」だという。

 レスリングの技は、手を引っ掛けるところや、腕を回して絞るところが数センチ違っただけでも、かかる技もかからず、あるいは防げる技も防げないと言われる。実際には、パワーの差があれば、その程度の誤差では技が決まり、防ぐことができる。

 湯元も同階級の選手との闘いでは、どうしても技が雑になってしまうことを感じていたという。引っ掛けるところがずれていても、パワーの差で技がかかってくれるし、防ぐことができた。しかし世界選手権で闘うような強豪選手が相手では、そのようなことができないことは知っている。

 そこで取り入れたのが、重い選手との積極的な練習だ。2階級上の選手が相手なら、指を引っ掛けるところが数センチずれただけでも、技はかからない。逆に、体重差があっても「技を正確に仕掛ければ、ポイントを取れるんです」と言う。欧米選手特有のパワーも、この技の正確さがあれば、しっかりとかかるはず。国際大会でメダルを取り、ワンランクアップを目指した練習に期待がかかる。

■2年前はアテネ五輪王者と大激戦を展開

 遠征では、双子の弟の進一選手(55kg級)が2大会連続金メダルを取ったという刺激材料もあった。「試合をしている時は、勝てるようにサポートした。勝った時は『やった!』とうれしかったけど、時間がたってくると、悔しさが出てきました」。昨年の日本代表が3位に入ったこととともに、燃える材料の多い世界選手権になりそうだ。

 この階級は、世界王者でありアジア大会王者のセイド・モハマディ(イラン)、アテネ五輪55kg級王者で1階級アップして昨年世界3位のマブレット・バティロフ(ロシア)が一歩リードしている状況で、あとはさほど強い選手はいない。

 04年アテネ五輪王者のヤンドロ・クインタナ(キューバ)は05年世界選手権で湯元が惜敗した相手
(左写真)。臆する気持ちはないはず。05年と今年欧州王者に輝いたバシリ・フェドリシン(ウクライナ)は、井上謙二にも高塚紀行にも勝てなかった選手。3位、あるいは最低のハードルである8位という壁は、決して高い壁ではない。

(文=樋口郁夫)



《iモード=前ページへ戻る》

《前ページに戻る》